「はい、二人にお給金。 あとは紅茶の葉っぱね。 ちょっと古くなったやつだけど良いかしら?」
「ありがとうございます」
お金と商品の入れ替えのために余った茶葉を受け取って御礼を言うと、クーネもゆらゆらと身体を揺らして感謝の意を示す。エリシアはニコリと微笑み、頭に手を載せた。ヒンヤリとした手の平は心地良い。
「じゃあ、気をつけてね。 また二人が手伝いに来てくれるのを楽しみにしているから」
「うん!」
手を振り返して、喫茶店を後にする。
今日の天気は気持ちよい快晴。思いっきり息を吸い込むと新鮮な空気が胸を満たした。クーネは私が光合成をしているのを見て楽しそうに触手を振り、眩しそうに太陽を見つめた。今日は絶好の光合成日和だ。
のんびりと光合成をしながら歩く。
クーネは石畳の上を壷状の体の下にある小さな足でチョコチョコと動かしながら可愛らしく歩く。見ていて微笑ましい仕草なのだけれど、ペースはクーネの方が遅いので歩くペースは自然とクーネにあわせることになる。
そんな様子を通りかかった知り合いが足を止めて声を掛けてくる。
二人で歩く時はいつでも嬉しそうにするのだが、今日のクーネは特別に機嫌が良さそうだ。きっと色んな人と仲良くなれて、話では聞いていた町の様子を実際に見ることができて嬉しいのだろう。
「ん? どうしたの」
不意にそっとクーネが触手を絡めて、クイクイと引っ張ってきたので振り返る。緩やかな動きで道端に店を構えている一件の屋台を差ししめした。風に揺られて幟(のぼり)がなびく。
モーモーとヒンヤリ 美味しいアイスクリーム
ひらひらと踊る文字が、クーネは気になって仕方ないようだ。幾つか露店があるので他の所も訊ねてみたが、あそこに寄りたいのだという。僅かに思案する。
新鮮なミルクの風味とキンキンに冷たいのに爽やかな清涼感が人気の一番美味しいアイスクリーム屋という噂ではあるのだけれど、露店の中では値が張るのだ。一度は行ってみたいとは思ってはいるものの、ずっと行けずにいる。
幾ら安定した生活できるといっても決して裕福ではないのだ。多少の蓄えはあると言っても、病気になったときの事を考えるとおいそれと使う気にはなれない。
ただ
クーネは初めて町に来たのだ。初めて来たのに思い出もないのも寂しかろう。できるだけ思い出を作らせてやりたい。それに、クーネはいつも遠慮ばっかりして滅多な事ではおねだりをしないのだ。
「あ、そうだ」
大事な事を思い出してポケットをまさぐり、鞄の中から皮袋を取り出す。クーネは不思議そうに私が手に持っている袋を覗き込んだ。いつも財布として使っている皮袋と違うのが余程気になるのだろう。
「チップをもらったんだ。 クーネの分もあるから、これで食べよう」
袋の中から銅貨を取り出して触手に握らせる。クーネは、ぱっと表情を輝かせ感謝を示すように身体を摺り寄せてきた。少しだけくすぐったい。
「クーネ、どれが良い?」
「いらっしゃい。 ゆっくり見て良いからね〜」
「どれも、とっても冷えていて美味しいよ」
ガラスの向こう側にはバニラやイチゴやチョコレートなどの色とりどりのアイスクリームが詰まったケースが納まっていて、それらに触手を押し付けるようにして魅入っている。店の邪魔になってしまうかとヒヤヒヤしたが、売り子のホルスタウロスはノンビリと嬉しそうに笑いかけてくれた。雪女もクーネが一生懸命アイスクリームを覗き込んでいるのを見てクスクスと笑い声を漏らしている。
「クーネ、決まった?」
訊ねるとコクコクと頷いて、チョコレート味のアイスクリームを指し示した。
「じゃあ、チョコレート味とバニラ味を一つずつ」
「はいはーい。 ちょっと待ってねー」
カウンターの上にお金を置くと、ホルスタウロスが手際よくコーンの上にアイスクリームを乗せる。
「はい。 どうぞ♪」
「ありがと」
手渡しで商品を受け取り、クーネも触手で器用に差し出されたコーンを絡め取った。ホルスタウロスと雪女の二人の売り子に見送られながら店を後にする。
「私もあんな風な素敵な魔物になりたいなぁ・・・」
立派に仕事ができて、居るだけで自然と笑みが湧き上がってくる。そんな魔物になれたらどれだけ素敵だろう。きっと、獲物も向こうからやってきてくれるに違いない。
そんな私の様子が可笑しかったのか、気がつくとクーネは隣で震えていた。
「クーネ、そんなに可笑しい?」
じっとりとした視線を向けるとブンブンと触手を振って否定した。なんて白々しい嘘だろう。そんなことで私を騙せると思っているのだろうか、クーネは私の事を絶対笑っていた。
「今なら、謝れば許してあげるけど?」
一応、他人ではない一つ屋根の下で暮らしている関係なの
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