「隣に越してきました、芦高と言います」
突然チャイムが鳴り誰かが訪れてきた。誰が訪れてきたのかと疑問に思いつつ、開けるとスラリと足の長い女性がそこにいた。八頭身の美人。思わず一歩ひいてしまうような、モデル顔。
「これからよろしくお願いしますね」
「あぁ、えっと・・・ よろしくお願いします・・・」
「なんだか・・・随分とこのドア曲がってますね・・・」
「そ、そう、ですよね・・・あはは・・・」
「もしかして何か居たりするんですか?」
「まさか、なにも居ませんよ」
「そうですよね。 あ、これ良かったら召し上がってください」
「あ、ありがとうございます・・・」
っというか、ぎこちなくとはいえ、よく対応できたな俺。ついこの間までは人と目を見て話すなんて考えられなかったのに。ルビアのお陰だろうな・・・ 殴られたり蹴られたりするのと比べれば、人の目を見て話す方が20倍ぐらいましだ。
視線が痛いとか言っている暇も無いぐらいにボコボコだし・・・
こんな生活に慣れかけている自分が恐ろしい。
・・・
「ん〜 おいしそうな匂いがする〜」
「なんだそれ? あぁ、獅子屋の酒饅頭か」
「お茶淹れる?」
袋も開けないうちに中身を当てる。お菓子って言ったら結構限定されるけど、どんだけ嗅覚が良いんだよ。トト曰く蝿の嗅覚はすごいらしい。一説には50km離れた死体の臭いを嗅ぎ付けるとかなんとか。
小説をベースにしているらしいので多少盛っているとは思うが、それでも嗅覚が良い故にそんな説が立てられるのだろう。仮に5km先の匂いが分かったとして、蝿の感覚を人間の大きさまでスケールアップしたら、大体500km先ぐらいの匂いは余裕で感知できるって事だからな。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。 500km先の死体の匂い成分が拡散するのにどんだけ時間が掛かると思ってんだ。 大体途中で風でも吹いたら場所も糞もねぇだろ。 それに、そんなに死体が欲しけりゃ、病院か葬儀屋、あるいは適当にボケた爺か婆の居る家を回った方が早いだろうが。 少しは頭使え、カス」
「え? ルビアってネクロフィリアだっけ?」
「阿呆か・・・例えだ、たとえ。 あんな動かない肉の塊なんぞに欲情するもんか。 股間に突起がついてりゃ誰でも良いテメェとはちげぇんだよ」
「うわ、ひど・・・」
どっちかっていうと、ルビアはカニバリズム(食人習慣)だもんな・・・
「おい、望み通りに食い殺してやろうか?」
「か、勘弁してください・・・」
カチカチと鉤爪を鳴らし威嚇してくる。細いクセに力は俺の倍どころではなく、一旦攻撃を開始すれば正確に人間の弱点を打ち抜いてくる。しかも合気道からプロレス技まであらゆる格闘技をマスター。
曰く、魔界ではこれくらいないと生きていけないらしい。
「ったく、カニバリズムってのは、別に通り魔的に人を殺して喰うわけじゃねぇよ。 それをやってるのは、ただの殺人愛好の偏食家だ。 カニバリズムってのは大きく分けて二つに分類される。 尊敬を抱く師や親しい相手の魂を引き継ぐという意味合いの言わば族内食人。 軽蔑や憎悪の対象を征服するという意味合いを持つ族外食人。 食料が尽きた場合の食人もカニバリズムになるが、この場合は単なる緊急避難だ。 意味なんてねぇよ」
ぶちゃけ、そろそろルビアの長ゼリフも慣れてきた。聞き流して良いと思うんだよね。
口には出さなかったが、無意識に思っている事が顔に出たのか一発鳩尾に拳を頂いた。
「人の話は聞け」
「ルビアはベルゼブブだけどね〜 でも、暴力は駄目だよ?」
「うるせぇな・・・ 人の揚げ足ばっかとってんじゃねぇぞ?」
「あはは〜 怒らない怒らな〜い♪ とりあえずお茶淹れたから、お饅頭食べよ?」
そういってお茶にする事にした。
・・・
二人が言った通り中身は酒饅頭だった。柔らかな香りと口の中に広がる独特の甘み。渋いお茶と良くあっている。トトは美味しい美味しいと言いながら行儀良く食べている。そしてルビアは
「パクッ・・・もぐもぐ・・・ パクッ・・・ もぐもぐ」
まるで、スナック菓子でも放り込むような感覚で口に運び、咀嚼し嚥下する。味わっているはずもなく、それどころか、ちゃんと噛まずに茶で流し込んでいるようにさえ見える。そして、あれよあれよと言う間に酒饅頭はルビアの胃袋の中に納まっていった。
「ルビア・・・ もう少し味わって食べようよ・・・」
トトにさえそう突っ込まれる始末だ。
ルビアっていつでも腹ペコだよな。なんだっけ、暴食だっけ? ベルゼブブの象徴する罪は。食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活している割にはスレンダーだし、太ってないよな。神様とか悪魔とかって太らない性質なの?
「てめぇと違って頭使って生きてるからな」
「なるほどね、それで
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