出会い

 豊かな自然に抱かれた都市ファフ。三方を山に囲まれ、残る一方は海に臨む。王国から程遠いこの都市にも、教会がある事には驚かされるが、王国のソレとは随分と様子が違う。大きな違いは魔物に対する見方の違いだ。
 ファフには、その交通の便の悪さと人型の魔物が多いという地理的に特殊な環境に置かれていたため、古くから魔物と共に発展してきたという歴史がある。正教が広まっているというのは、むしろ表面だけであり王国に目を着けられないためという意味合いが強い。
 そのため、“魔物の司祭”というのは流石にいなくとも、副司祭はダークプリーストが務めていて、司祭でさえ本来なら忌むべき相手とされる魔物を共に歩むべき隣人と考えている。逆に、魔物の方も人間を単なる“食料”ではなく“友好を結ぶべき相手”と考えているようだ。

 山道を歩いていた青年は道の真ん中で足を止めて振り返る。
 少しよれた茶色の皮のコートを着た細身の青年、年は16,7くらい。なんとなく顔には幼さが残っているが、それがかえって“優しそう”とか“親しみやすそう”という印象を相手に抱かせる。
 「・・・う〜ん」
 立ち止まったそのままの姿勢で頬を指先で掻く。
 視線の先には、大きな木・・・に隠れつつも様子を伺う魔物の子供がいる。もっとも、マンドラゴラの可愛らしい色をした花弁が木の幹から見えているので、あくまで隠れている“つもり”であって、隠れきれていないのだが・・・

(本人が隠れているつもりなら・・・声を掛けない方が良いとは思うんだけど・・・)
 ここ最近、山に薬草を採りに来る度にくっついて来る。ちなみに尾行の評価は全て“もう少し頑張りましょう”だ。本人の方もビクビクしながら、時折、気が付いて欲しそうな表情を浮かべているようにさえ見える。
(俺に用事でもあるのだとしたら・・・声を掛けるべきか・・・)

 山にいる間は終始くすぐったい視線をあびる事になるけれど、今のところ実害はない。大した実害も、これと言った理由なく子供を追っ払うのは気が引けるし、教育にもよろしくない。仮に襲われても、植物系魔物の子供の相手なら双方無傷のまま逃げきるのは難しくないだろうというのが追い払わない最大の理由だ。

 木の陰から大きくクリクリした瞳がこちらを伺い、視線が合うとサッと木の陰に隠れる。そして、しばらくするとソロソロと顔を覗かせて、まだ俺が見ている事に気がつくと“しまった”という表情をして引っ込んだ。
 その仕草は非常に可愛らしく微笑ましい。しばらく眺めていたものの、あまり悪戯していても可哀想だ。こちらから声を掛けないといつまでもラチがあかないだろう。できるだけ、刺激しないように手のひらを見せて害意が無い事を示してから近づく。
「どうしたの?」
 近づいてからは、軽く身体を屈めて目線を低くして、わずかに見上げるようにしてやる。それだけでグッと警戒心を解いてくれるものだ。
 魔物の少女は驚いた表情を作ったが、どうやらこちらに害意が無い事を察してくれたようだ。
「名前は・・・ディアン・・・さん・・・で良いんだよね?」
 恐る恐るといった風に尋ねた。
「あぁ、俺がディアン=ルノワールだよ。ディアンって呼んでくれると嬉しいかな」
 コクコクと少女は頷いた。薬草を調達しに山に入る事も多く、自然と魔物にも知り合いが出来るので名前を知られていても余り驚かない。
「俺に用?」
 尋ねると困った様に俯いた。それから、自らを納得させるようにモゴモゴと呟き、何度か頷いている。目下の相手は焦らせても要領の得ない解答が返ってくるだけなので気長に待つ方がかえって早い。
 しばらく待つと、意を決した様に顔を上げ
「・・・えいっ!」
 倒れこんできた。
 油断していたのと屈んでいた姿勢だったため、受け止める事もできずに無様に尻餅をつき、そのまま・・・頭と頭がぶつかってゴツンと鈍い音がした。


 数分後、二人は近くの開けた場所にいた。
 お茶を勧めると素直に受け取りコップの端に口をつけ、ビスケットも勧めると躊躇いながらも一枚だけつまんだ。ビスケット食べ終わる頃合いを見計らって口を開く。
「君の名前は?」
「イル。種族はマンドラゴラ。」
 小さな声で名乗った。
 魔物なので見た目はあまり当てにはならないが、年は12,3といったところか。随分と小柄な子だという印象を受ける。病気という訳ではなさそうだけれど、どちらかと言えば少々未熟なまま、すぐに引き抜かれたと表現するのが一番適切だろう。
「イル、か。うん、可愛らしくて良い名前だ。」
 ただ、名前を褒めただけなのに顔を赤くして俯いた。それが、あまりにも素直な反応なので思わず頬が緩んでしまう。
「それで、どうして隠れてくっついてきたのかな?」
 直前で名前を確認した事を考えれば、突発的な行動ではなく、
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