宿に戻ると、調度ハーピートレイラーが飛び立った所らしくエスティーは庭先まで出ていた。俺の姿を見るとわずかに微笑んだ。
「ゲートの復旧は大体終わったみたいです
今晩中に確認をしますから・・・明朝には現世にいけると思いますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「え、帰っちゃうの?」
「まだ、良いでしょ?」
「妖精の国だって、まだちょこっとしか見てないんだよ」
「もっと遊んでよぉ〜」
「あと一晩ぐらい延ばしても良いじゃん〜」
「こら!ラプラさんが困ってるでしょ?
困らせるような事を言わないの!」
俺が礼を言ったのを聞くと、フェアリー達は悲しそうな声をあげた。出会ってからたったの一日しか経っていないのに、随分と懐かれてしまったようだ。それが心から慕ってくれて、駄々を捏ねる。
もし、テイルが言ってくれなければ首を縦に振ってしまいそうだった。もっとも、そういうテイルも不満そうに唇をとがらせていたりする。エスティーは少しだけ困った様な表情を浮かべた。
「ねぇ、じゃあ、お別れ会やろうよ」
「ソレくらいは良いでしょ、マスター?」
「ラプラさんが参加したいと思えば、ね
どうしますか?」
問われるまでもなく、決まっている。
是非、と頷いた。
・・・
明日の明朝に出るので、今日は早めの夕飯になった。
“お別れ会”と言っても、夕飯が少し豪華になっただけの話なのだがフェアリー達が食堂に飾りつけをしてくれて随分と楽しげな雰囲気になった。食後は全員でちょっとしたゲームをして遊んだ。
楽しい時間はすぐに過ぎるというように、あっという間に過ぎてしまった。
楽しい時間を作り出す事に関しては、妖精達は天才だと思う。町には商会の仲間が居るとはいえ基本的に一人寂しく旅に生きる人間にとっては、彼女達は本当に恐ろしい魔物かもしれない。そんな観想を抱きつつ、一人で苦笑いを浮かべた。馬鹿な考え事はもう終わり、明日からは元の生活に戻るのだ。そう考えれば、十分夜更かししている。
そろそろ床に着こうかと考える。
コツコツ
ベッドの用意をしていた手を止める。寂しさのあまり、幻聴でも聞こえたのかと思っていると
コツコツ
再び、窓の方から何かを叩く音がした。なんだろう、と思い窓に歩み寄りカーテンを開ける。
「・・・テイル!」
窓ガラスの向こうにテイルがいた。何事かと思って、軽く動揺していると、パクパクと口を動かして“窓を開けて”と言ってきた。妖精の国でも夜は冷える。外に出しておいて風邪でもひかれたら事だ。窓を開けてやると、ヒョイ、と部屋の中に飛び込んで、スリスリと体を俺に摺り寄せてきた。
「お兄さん、温か〜い」
「どうしたのさ、こんな遅くに・・・もう、他のフェアリー達は寝てるんじゃない?」
「うん、いつもみんな寝てる時間だね
でも、お兄さん・・・明日帰っちゃうんでしょ?」
「まぁ、ね」
「だから」
テイルは、俺の目の前でホバリングしながら笑った。
あどけない笑みが似合うフェアリーは随分と似合わない笑みを浮かべた。寂しさを押し隠した偽りの笑み。嘘と本音を使い分ける行商人でなくても見抜ける程の下手な嘘。それは、少しでも互いの寂しさを紛らわせようという、優しい嘘だ。
ただ、行商に生きる俺には気遣いがとても胸に刺さる。
「もっと、一緒に遊びたかったな・・・」
部屋をグルグルと旋回しながら、誰に言うでもなくテイルは呟いた。
俺は、ただ黙ってベッドに腰を下ろした。
一日ぐらいなら、出発を延ばしても構わない。ケサランパサランと一緒にいると楽しい気分になるし、ピクシー達の悪戯というのも微笑ましいものばかりだった。できる事なら、もっと彼女達の事を知りたいし、一緒にいたいと思う。しかし、延期してしまえばきっと何日も出発を延期してしまうような気がする。俺が行かなければ困る人がいる以上、いつかは行かなければいけない。だから、“出発を延期する”なんて言う事ができなかった。
テイルもそれが分かっているのか、それ以上は何も言わなかった。
何の前触れもなく旋回をやめると、不意にポスンと俺の膝の上に乗った。
「ねぇ・・・こっちに来る時、一緒に遊んでくれるって言ったよね?」
「そう、だったね」
「今夜だけ、ずっと遊んでくれる?」
六匹のフェアリー達の“お姉さん”だから、五匹の前では甘えられない。だから、日中は遊びたいのをずっと我慢していたのだろう。それに口約束でも約束は約束だ。守らない訳にはいかない。
「良いよ、何して遊ぼうか?」
「その・・・なにで“遊び”たい・・・」
「何で遊びたいって?」
「だから・・・その・・・言わせないでよ・・・」
問うと、テイルは顔を赤くして俯いた。そのまま、指で俺の胸のあたりにクルクルと円を
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