ロマンチストフライト

 崖から大空目掛けて勢いよく飛び立った機体は、一瞬だけ空に浮かんだかと思うと次の瞬間には翼が二つに折れた。
 操縦者が救命胴衣を膨らませて落ち行く機体から脱出すると同時に、崖の上で控えていた従者のオートマトンが飛び出して彼女を空中で捕らえ、彼女を庇うようにしながら海の中へと飛び込んだ。
 派手な水音が響いた後ややあってから、木材が暗礁にたたきつけられて粉々になるというあまり聞きたくない音が辺りに響いた。

………
……


「あっはっは。失敗だ、失敗。大失敗。死ぬかと思った。な、ノーラ」
「えぇ、流石に今回のは生きているのが不思議なくらいでしたねね、グロリア様」
 まだ残暑が厳しい季節とはいえ初秋の海水はすでに冷たく、最早海で泳ぐ海水浴客など居るはずもない。季節外れの海水浴を楽しんだグレムリンはその震える体をバスタオルで包みながら大笑いし、その同伴者となったオートマトンはその言葉に頷きながら海水に浸かった自身の身体のメンテナンスに勤しんでいた。
 一歩間違えればネレイスの仲間入りを果たしていたにも拘らず、二人とも全く反省の色が見えない。むしろ、今回の失敗を楽しんでいるようにさえ見えた。彼女たちの言葉を借りるのであれば、「一回で上手くいくはずがない」という奴なのだろう。
「今回のフライトは、コンセプト自体は間違いがないと思うんだよ。一瞬だけど飛んだし」
「問題は翼の強度でしたね。軽量化を重視するあまり、強度を考慮していませんでした」
「材料の検討かぁー……」
「材料の検討は予算が幾らあっても足りません。先に構造の最適化をしましょう」
「そうだな、帰ったら図面の見直しをすることにしよう」
 手痛い失敗にも関わらず、大して傷心している様子もなく次の計画を練っている姿は、ただただ感服するばかりである。
 とはいえ、一緒に居る人間からすれば毎回毎回海に飛び込んでいる姿を見るのは大変に心臓によろしくない。せめてもう少しで良いから安全に配慮して欲しいものだ。
「とりあえず、帰ろうぜ」
「そうだな」
「イエッサー」
 機体は海の藻屑になってしまったし、年頃の娘を二人もずぶ濡れにしたまま外に放っておくのもよろしくない。これ以上、ここに居る理由もないので車に乗るように促すと、二人とも頷いて車に乗り込んだ。
 キーを回してエンジンを掛ける。
 僕らは帰路へと着いた。

………
……


「なぁ、なんでお前らは魔力を使わないで空を飛ぶことにこだわるんだ?」
「なんでって…… そりゃあ…… お前、魔力使わないで飛べたら一緒に飛べるだろ?」
「そうですよ、ねぇ?」
「三人一緒に自分の力だけで空を飛ぶんだ。きっと気持ち良いぜ?」
「考えるだけでワクワクしますね」
17/10/13 22:54更新 / 佐藤 敏夫
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