良いのかい?ホイホイついて来ちまって

 空を見上げれば高い木々のサワサワと歌い、葉の隙間から木漏れ日が落ちる。目を閉じれば緑の香りと土の匂い。視線を落とせば多くの小動物が通ってできた細い獣道がある。大型の肉食獣のいないこの森は実は隠れた散歩コースで、地元の人間も時折散歩しているらしい。
 今、流行の“まいなすいおん”がたっぷりの空気を吸い、青年は浮かない表情で息を吐いた。

「困った・・・」

 真っ直ぐ歩いているはずなのにいつの間にか元の位置に戻ってきてしまう獣道と先ほどから一向に動く気配のない太陽。最初は獣道が円を作っているのかとおもったのだが、獣道から逸れて歩いていても何故かこの獣道に戻ってきてしまい一向にこの周囲から離れる事ができないでいる。
 彼は元々旅から旅の行商人で、幸い扱っているものは鉱物などといった腐らないものではある。なので、旅の日程などあってないようなもので、数日ほど納品が遅れてもそれほど影響はでない。むしろ事情を説明すると、取引先が「なんだ、魔物に襲われたのか?・・・よかったじゃねぇか!今度、紹介してくれや!」なんて豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくるような連中ばかりだ。

 まったく・・・そんな事は魔物に襲われたことがないから言えるんだ・・・
 誰に言うでもなくぼやいた。


 最初はサキュバスだった。
 藪から飛び出してきたかと思うと俺の事を藪に引きずり込み、あまりに突然の事に訳も分からず暴れて逃れようとする俺を強引に組み伏せ、俺の上で愉快に腰を振り始めた。調度、12の時だ。初めてはアッサリとサキュバスに奪われたのさ。

 次はホルスタウロスだったよ。
 その時は独立した年かな?ホルスタウロスの乳を入荷しようと牛乳屋に行った時。俺も独立したてほやほやだったんだ。最初の契約だったからね・・・俺も、ちょっと気が張っていたのさ。
 周りの連中は温厚で可愛い相手だ、って言うから俺も下積み時代から溜めた貯金で買った一張羅を着て店に乗り込んだ訳。から〜ん、と扉の鈴を鳴らして入ると、まぁ、店員はこっちを見たんだね。可愛い子だったよ。目が合った瞬間に眼の色が変わった時は俺もドキッとしたね。フラグでも立ったんじゃないかと期待したよ。
 でもね、違ったんだよね、一張羅の赤いチョッキに反応しただけなんだよね。
 カウンターを破壊しながら、突っ込んでくる魔物娘なんてみたら逃げるだろ?
 逃げたさ、俺も。通りの方にね。
 けどね、獣系の魔物と人間が運動能力で勝負するなんて土台無理な話なんだよ。
 道の真ん中で、押し倒されたよ。完璧に盛ってたらしくてね、あの胸を目の前で弾ませるんだよ。「や、すごい〜〜〜!!!」なんて叫びながらね。
 公然プレイ。
 一張羅滅茶苦茶。

 えぇ、気持ちよかったですとも(やけくそ)!!!

 その後は、ギルタブリル、ミノタウロス、ワーウルフ・・・

 不毛になって、五人(匹?)以降を数えるのを止めた。独立して半年で両手を軽く超えたので、何度襲われたのかは既に分からない。人を襲うのは精の摂取のためだと聞くし、その場合は妊娠しないと思うが、知らない魔物が“パパァ〜♪”なんて甘えてくる日もそう遠くはないんじゃないかと戦々恐々としている・・・

 未婚、子供数名(顔も名前も不明)性犯罪者ですね、分かります
 顔見た瞬間、自警団に通報余裕でした

 友好的な(読・俺を襲わない)魔物もいるにはいるんだけど、いかんせん魔物相手にはトラウマのせいで商売以外では極力関わらないようにしている。


「あぁ・・・どうすっかなぁ・・・」
 荷物を降ろし木の根元に腰掛けて水分補給をしながら、憎憎しげに太陽を見上げる。地脈を歪めているのか、なんなのか分からないが森から外に出られない。魔術が使えれば、子供騙しなのかもしれないが、生憎と魔術のまの字もわからない。
 チラリ、と草原から森まで一瞬で転移した魔方陣を見る。見晴らしのよい平原でクイーンスライムに気をとられて乗ってしまったのが運の尽き。この森に飛ばされて、一方通行用なのか、今はウンともスンとも言わない魔法陣だ。
 先の見えないこの状況にハァと溜め息をつく。

「あれ?
 お兄さん、溜め息なんてついて、どうしたのぉ〜」
「うわぁ!」

 突然、空から軽やかな声が降ってきた。そして、この流れは絶対に魔物だ。なんとしてでも逃げなくてはならない。そう思って、慌てて逃げようと思って荷物を担ぎ上げた段階で気がついた。
 相手が意外にも小さかった。ぬいぐるみよりも少し小さいぐらいだろうか。透明な蝶の羽を背負い、花のような衣装と木の実を使った髪飾りをしていた。全体的に楽しそうな雰囲気を醸し出している。

「フェア・・・リー・・・?」
「せーかい、せーかい、だいせーかい♪」

 恐る恐る尋ねると、鈴を転がしたように笑いなが
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33