青年領主と二人のメイド

『自分で出来る事は自分で出来るようになりなさい。やりたいと思う事があるのなら、命を賭けてやり遂げなさい』

それが唯一、父から教わった事でした
領主として民に尽くし、父として私を育ててくれた私の父は仕事人間で常に民の事を考えていました
寂しく思った事もありましたが、それでも、少ないながらもこうして私という人間の一部を形成するような言葉を贈ってくれた事に感謝しています

『無理に父の跡を継ぐ事はありません、貴方のやりたいように生きなさい。自分のやってきた事に誇りを持って死ねるのならば、私はそれだけで十分です』

それが幼い頃から母に言われ続けた事でした
力強くも優しかった母は、仕事で家を空ける事の多かった父に代わり様々な事を私に教えてくれました
料理の作り方、お茶の淹れ方、勉強、裁縫、剣術、馬術、農業、そして領主としての振る舞いや父の仕事
少々気分屋であった母ですが、こうして私が一人で生活出来るように育ててくれた事に感謝しています

今や私も家督を継いで領主となり、周りを冷や冷やとさせてしまう事もありますが何とか一人で生活しています
大きかった父の背中に追い付けるように、良い領主として民から愛されていた父の顔に泥を塗らないように、今日も民の為に尽くしましょう


朝、カーテンの隙間から射し込む太陽の光を恋しく思いながら私は目を覚ましました
私が治める領地を含む国が魔物の軍勢との戦いに敗れ夜の明けぬ魔界となって久しいですが、やはり見慣れた太陽を見られないというのは少し寂しいですね

「「_____おはようございます、旦那様」」

むくり、と
身体を起こしたところで聞き慣れない声を掛けられました
この家には私一人しか暮らしていませんから、私に声を掛ける人など居るはずありません

「……………魔物、ですか」

そう、私に声を掛けたのは魔物でした、それも二人

一人は本来午後用として使われる黒地のエプロンドレスを着込み、頭にはシニヨンキャップを被っています
特徴としては、髪から覗く犬のような垂れた耳に手首を覆う羽毛、そしてゆらゆらと揺れる獣の尻尾でしょうか
足元も靴とは違う鱗のようなものがスカートから覗いて見て取れます
柔和な優しげな笑みを浮かべ、私を見つめています

もう一人は先程の魔物とは意匠の違う濃紺のエプロンドレスを身に包み、頭には白のヘッドドレスを着けていますがそのどれもまるで洗濯したばかりのようにひたひたと粘液で湿られています
青白い肌に所々から覗く瞳のような模様、下半身はエプロンドレスが溶けてしまったかのように濃紺と紫が混ざったよう色の不定形な姿で、時折そこから触手が生えたかと思うと吸い寄せられるように不定形に近付き同化していきます
こちらは目を伏せながらも口元には笑みを浮かべ、伏し目がちに私の方を見つめていました

そのどちらも人を惑わすような美しい容姿であり、人外の魅力に溢れています
生憎私は未だ独身の身ではありますが、国を覆う魔物の魔力によって領内に暮らす女性は皆魔物の姿へと変わった為魔物への偏見はありません
元々この国は主神教団の教えが広まっており、私自身も主神教信者ではありましたが領民の半数以上が魔物へと姿を変えた為考えを改めたのです
何より、教団の教えとは違う人を愛する魔物達の姿に惹かれていったというのも大きな理由の一つではありますが

「初めまして、旦那様。本日より旦那様にお仕えさせていただきます、キキーモラのマリーと申します。至らぬ点もあるかとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します」

獣の尻尾を持った魔物_キキーモラのマリーさんはそう言って両手でスカートを軽くたくし上げお辞儀しました
その姿はまさに洗練された立ち振る舞いで、それを自然にやってのけるマリーさんは長年使用人として仕えているような雰囲気を醸し出します

「はじめまして、当主様。こちらのキキーモラと同じく、本日より当主様にお仕えする、ショゴス、ルルで御座います。
当主様のご命令なら、ペンにでも剣にでも盾にでも、何でもござれで御座います。よろしくお願いします」

不定形の下半身を持つ魔物_ショゴスのルルさんは両手を臍辺りに組みお辞儀しました
透き通った声の中に何処か深い音を感じさせながら喋るルルさんは、不定形から生やした触手を同じようにお辞儀させわマリーさんと比べると若い使用人のような雰囲気を感じます

「……………お二人共、初めまして。ですが、私には使用人は必要ありませんよ。幼い頃から使用人に頼らずとも生きていけるようにと教育されていましたから」

「存じております、旦那様。しかしながらそのお望みは聞き入れる事は出来ません。私は旦那様の事をずっと拝見させて頂いておりますが、お一人ではキチンと栄養管理や体調管理が出来ておられないようです。お疲れ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33