彼は夢を見た、愛猫のミーコの夢。
彼女はいつも彼と一緒にいた、小さい頃から一緒にいたせいもあっていつでもそばにいた。
親に怒られて泣いた時、独り不安に駆られて震えた時、機嫌が悪くて膨れていた時。
彼女はそっとこぼれる涙を舐めてくれた、これからもずっと居てくれると信じていた。
彼女は彼から背を向けて、歩く。
追いかけても遠ざかる、足は砂に取られ、叫ぶも車が近づく・・・
「・・・」
目を開けると、不安そうな紫色の瞳が目に入る。
そうだ、彼は異世界に居る事を自覚する。
再び涙がこぼれる、そっと彼女が抱きしめ背中を叩いてくれる。
・・・
朝食を作る、彼は喜んで食べてくれるだろうか。
この場所での採れる食べ物は乏しい、もってあと2回だろう。
ここを離れれば幾らでもあるが、そこへ行けば少なからず自分を狙う魔物娘に会うだろう。
今の魔力ではどんな相手でも太刀打ち出来ない、そう思い今の暗い森へひっそりと過ごしていた。
消え入りそうな彼をほっとけなかった、何故かは判らなかったが少なくとも前の自分なら見捨てていただろう。
この世界で出会うのは全て運命だと女王は言う、彼もそうなのだろうか・・・答えは煙の様に立ち消えていく・・・
彼は良く食べた、そこまで得意ではない料理だったが嬉しく思う。
彼が笑顔になる度、嬉しくもある反面、嘘が心に突き刺さる。
自分はその思っているミーコでは無いのだ。
嘘は誰よりも付いた本人を襲う、彼女自身がそれを自覚する。
そしてそれ以外にも短絡的な問題も露呈する、食料が無い。
それは外へ行けばいい、それよりもだ、彼はまだここにいるという事は
まだ生きている、元の世界へ帰る事も出来るはずだ、・・・女王だ、女王に頼めば戻してくれる筈だ。
代償が何であろうとも、たとえこの目であろうが腕であろうが命であろうが
今の彼女に恐ろしいものは何もない、ただ彼の為。
最後の最後で、嘘だったと言えばいい。
彼はきっと救われるのだ、そう。
出来れば早い方がいい・・・・・・
「あのね、もう直ぐ食べる物が無くなるの」
そう切り出す、それは嘘ではない。
「あと君をね、元の世界に戻せるかもしれない。この世界の女王にお願いするの」
これもきっと嘘ではない。
「そこで私もね、戻れたらいいなって。でもちょっと問題があるんだ」
少しずつ嘘を盛っていく。
彼は素直に聞いてくれている、戻れる事、外へ出る事、私も元の所へ行く事。
どれも目を輝かせて聞いている。
「道案内を私がするでしょ、でも私は他の魔物娘と会う訳には行かない。狙われているからね」
少し盛る。
「君も見つかるとどんな目に逢わされるか判らないし、出来れば他の魔物娘に見せたく無いの」
さらに盛る。
「私だけなら会っても回避するのは容易だわ、だからこれを用意したわ」
自分でも苦しい言い訳、彼は素直に聞き入れてくれている。ミーコを信じると。
「姿を隠す頭巾、これを付ければ自分からも、または他の相手からも見えないわ。でも一度着て脱ぐと半日は使えなくなる」
昔、いたずらで盗った道具が役に立ちそうだ。
「でも音も存在すらも見えなくなる、でも手を握っていれば握っているお互いだけは認識出来るの」
私は彼の手を握ってから頭巾を被らせる、姿が消える、彼の呼吸音も消える。
・・・
ミーコを信じるとは言ったもののこんな頭巾で本当に全てを消せるのか。
手を握ってから頭巾を被る・・・ミーコの姿が見えなくなる、声も聞こえない。
びっくりして手を放してしまった!
慌ててて手をあちこちにペタペタと伸ばす・・・ふにっと柔らかいものに触れて彼女がまだ前に居る事を認識する。
・・・ああ、頭巾を取ればいいんだ。
片手で脱ぐともう片手は彼女の胸を触っていた。
・・・彼女は一ミリもその場から動いておらず勝手に混乱して胸を触れてしまったようだ。
彼女は困った顔をしていたが胸に触ったことは怒ってない様だ・・・
慌てて放すも手に残った柔らかさは消えない、謝るも大丈夫と微笑んでくれた。
彼は、彼女は相手が異性だという事を認識してしまった時間でもあった。
頭巾の効果が再使用できる半日後に此処を出る事にする。
此処での最後の食事だ。
「さぁどうぞ」
彼は良く食べてくれた、正直自分もよく食べた。
あの日以来食が細くなっていた、食べない日もあった。
食べる笑顔の彼につられて自分も食べた、もっと見ていたいと思う反面使命を果たさなければ・・・と
彼と手を繋ぎ、住処から出る。
頭巾をもう被せて
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