恵まれた環境に生まれ、長男だった貴方は常に最高の教育とスポーツを与えられた。
貴方の弟は兄の貴方よりも父親の望み通り育っていくが自分は月並みが精々だった。
貴方はなんとかそれなりの大学を卒業するが尚も押し付けてくる父親の期待に重圧を感じ、それきり実家へ戻る事は無かった。
現在、貴方は大学時代に経験したサバイバル術を生かす為、株で稼いだ金を使って山を買い、その森の片隅でゆっくりと暮らしている。
貴方は父親とは連絡を取っていないが、母親には稀に手紙を送っていた。
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少ない友人の一人が貴方を尋ねに行った時、貴方が居るはずの家には誰も居ない。
警察を呼んだが警官によると彼は森で迷ったのでは無いかと、捜索隊が捜索するも見つかる事は無かった。
しかし母親によるとつい昨日も本人筆跡の甘い香りがする手紙が届き、元気にしているという事だった。
警察は捜索を辞め、友人の勘違いという事で処理を終えた・・・
・・・
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その少し前・・・
貴方は本当に暗い森と霧で完全に迷ってしまっていた。
まるで邪神にでも気に入られてしまったかの様に。
もはや年貢の納め時、そう思い目を閉じて一呼吸すると鼻孔と口腔に甘い香りが侵入する。
貴方が目を開けると、黒い空と森は無く、白い霧に変わっていた。
薄らぐ霧から見えたのは木々がパステルカラーの暴力、今まで居た森では無かった甘い香り。
貴方は遂に自分は狂気に陥ったのか、自虐的に笑いながら認識出来ない光景を目にする。
刹那、貴方は遠くから巨大なホットケーキをぶつけられるかもしれない様な感覚に陥る。
・・・そんな馬鹿な、貴方はその感覚を無視した。
数秒後
「おすだああああああああああああああ!!」
貴方の少し上から真正面にピンク色が飛び込んでくる。
倒れこみはしたものの気を失う事は無かった、しして目に映ったのは。
クリクリとした大きな瞳、ピンクの髪と可愛らしい顔、小さな身体の割に大きい胸、露出の方が多い服。
しかしそれ以外に人間とは逸脱して違うものがある。
両腕はピンク色の鳥の様に大きな羽毛、足は鳥の様な肢。
「お手付きじゃない!遂に見つけた私だけの人に!」
目の前の彼女はそう叫ぶ。
貴方はモッサが描いた飽食のセイレーンに出会ってしまったのかと思った、素直に喰われるよりここで叫んで逃げるべきか。
だが彼女は宝物を見つけた様なキラキラとした瞳でこちらを見つめている。
それを貴方はかの恐ろしいものには見えず、可愛らしい姿に恐怖は微塵にも感じずむしろ見とれてしまうばかりだった。
「・・・ん?どうしたの?どこか痛い?」(ポフポフ)
貴方は頬に柔らかい羽根が触れた事を認識する、どうやらまだ正気を保てているようだ・・・
彼女はピッと立ち上がると腰に手を・・・羽を当てて
「あ!私はジャブジャブのジャフだよ!迷い人だね?ここは不思議の国だよ!!」
高い可愛らしい声を掛けてくる、貴方も立ち上がり名前を告げる。
「わあー、良い名前だね!」
嬉しそうな彼女と反面、貴方は困惑する、ここは・・・不思議の国?そういえば幼少の時に読んだ絵本の世界の様に見える、そう貴方は認識する。
「良かったら私がこの辺りを案内するよ!ついて来て!」
貴方はフワフワな羽毛に手を握られ、そのまま迷い込んだ世界を案内される事になった。
・・・
・・
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貴方は女性が苦手だった、数年前に父親の後援会に行った時の事。
そこには美しい女性ばかりが居た、しかし自分に集まる値踏みした様な目、目、目。
有象無象の人が自分へ向けられる言葉は何を言っているのか、父親に取り入れられる為の美辞麗句なのか。
貴方は人が、更に女性が苦手になっていた。
・・・
だが嬉しそうに自分の手を引いている彼女から圧迫感も値札を見る様な邪悪さも感じ取れない。
自分の胸が昂ぶりを抑えきれていない事を、彼女に惹かれ始めている自分に貴方は困惑した。
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貴方は森で迷った時、最悪に虫や泥水を食する事も考えた。
「そこは全然大丈夫だよー?」
彼女が言うにはこの不思議の国ではそれらは全く問題が無いという事。
色とりどりの樹木には食べれる果実が実る。
流れる川の水は飲んでも安全(ただし甘い)
気温も安定している(が景色は左右を見回すとコロコロと変わり記憶が当てにならない)
「他にも色々あるよー!」
手を引かれる度に新しい発見が貴方を困惑させる。
無料で自由に住める家も点在しており、川近くや小高い山、洞窟など好きに移住して
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