「ふむ...」
少年とトカゲの娘は野宿していた。
時刻は日が沈み星々が姿を現し始めた頃、
娘は焚き火の前で地図とにらめっこしていたがため息をついて放り出してしまった。
「だめだ。この地図が間違ってるとしか思えない。いっぱい食わされたようだ」
思えば地図を買った商人は怪しかったかもしれない。
チビでたっぷりした服を着て語尾が〜アルだった。
あの時は急いでいたから迷わず買ったのだが、コレがまずかったようだ。
「はぁ...」
またため息をついてうつむく。
自分ひとりならまだいっぱい食わされたか!と笑って忘れられるが、
隣には寡黙で何を考えているのか分からない少年が座っている。
鋭い人だからきっともう気づいてはいるだろうけれど...
やはりなかなか言い出しにくい。
「その地図」
「え?あ あぁ コレ?これ...その...」
無言で手を出す少年。
仕方なくでたらめだった地図を差し出す。
少年はじっとそれを見ていたが、何を思ったのか地面に書き写し始めた。
手ごろな石でほぼ正確に模写していく。
少年の手が止まるころには紙切れの地形がそっくりそのまま拡大され
地面に写されていた。
彼はそれを数秒見つめて頷くと、その上にさらに線を書き足してゆく。
何をしているんだろう?
そう思って覗き込むと思わずあっと声を上げてしまった。
地面に書かれているはずの山々が浮き出して見える。
手を伸ばして掴もうとしたのだが掴めない。
頭に疑問符を幾つも浮かべる私に彼はこう言った。
「これは...十数年前のもののようだ」
やはりまんまと騙されていたようだ。
しかし、どうしてそんなことが分かったのか。
そう彼に問うとこんな答えが返ってきた。
「ここが俺たちの通ってきた山道だ。
この地図では一見東からやってきたかのように見えるが...
星を読むと俺たちは西から東へ進んでいる。
ここですでにこの地図は正しくないと分かる」
彼は一度ここで切って私を見つめた。
私があることを言おうか言うまいか迷っているとまた話し始めてしまった。
「しかしこの地図には正しい部分もある。
お前が寝ている間にここ周辺の地形を調べてみたんだが、
ここの地形は...」
また棒切れを手にとり、立体的になった地図の横にもう1つ地図を書いていく。
それは役立たずの地図と似ていたが、大きく違う箇所が1つあった。
「...森が...無い?」
そうだ、と彼は頷く。
「以前は俺たちが通ってきた山道の右には草原と森があったようだ。
しかし何らかの災害...おそらく地震と火山の噴火により、
地は割れ草木の生えない荒野となってしまった。
それに伴いこの辺りの生態系が変化し、
この地図とは似て非なるものとなったようだ」
所々に理解できない単語があったが、
この辺りの地形が地図とは違うものであるということだけは分かった。
「よって俺たちはこの峰が東側にあるものと勘違いしてしまった。
正しくは右側だ。
つまり進むべき方向とは逆の方向に進んでいたことになる」
そのように彼は結んで、焚き火のそばに寝転がった。
一番気になっていたことをさらっと言われた挙句、
旅の邪魔になっていたことを知って私は思わず肩を落とした。
また泣きそうになってしまい唇を噛む。
「明日は早く出発する。このままでは水が持たないからな」
要は早く寝ろと言いたいのだろう。
もしくは気を使ってくれたのかもしれない。
しかし地図も無いのにどうするというのだろうか。
いや...私は文句を言える立場ではないのだが...
どちらにせよぼんやり座っていても意味がないので寝ることにした。
この借りはいつか返さなくては...
忘れて楽になりたいけれど...それでは借りを返せない。
いつまでも後悔と責任が頭の中をぐるぐるまわってなかなか寝付けなかった。
翌日、目が覚めると焚き火はすでに片付けられており、
彼がすでに荷造りをして待っていた。
あわてて起き上がって自分の荷物(とはいっても寝具ぐらいだが)を片付け始めると
彼が干し肉と水筒を放ってくれた。
「食べておけ」
そう言って彼は立ち上がり手近な木の幹にもたれかかった。
とにかくも私が肉を口に詰め込みながら支度を終えると
付いて来いと手を上げ、歩き始めた。
彼が選んだのは道無き道、いわゆる獣道だ。
気になって問いかけるとこちらの方が早いらしい。
しかし険しく鬱蒼と茂る木々やツタを掻き分けながら進むのは
予想以上に体力を消耗した。
ふと彼の様子が気になってそっと顔を覗きこんでみるが、
やはり汗は見えず、息切れもしていなかった。
戦士としてこれだけ差があるとなんだか彼が遠い気がした。
強いていうなれば私がまだ幼かった頃の師匠のようだ。
何度挑戦してもことごとく破れ
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