_____ィィィン
彼の細身の剣が喉元に突きつけられる。
一瞬だった。私は彼の動きを追うことさえ出来なかった。
「俺の勝ちだな」
言うなり彼は剣を収めた。
私は思わずその場にへたりこんだ。
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森の中を歩いているとなにやら走る音が聞こえた。
ふと気になって後を追ってみると細身の人間の少年だった。
普段なら見逃していただろう。
さすがに子供を襲うほど私たちは飢えてはいない。
が、その少年を見かけたのは森の奥深く。
周辺には村も無ければ街も無く、偏狭の地だった。
それにその少年の腰にはその姿には似合わない無骨な剣が数本吊ってあった。
これだけで十分その少年と戦闘するに値する理由があるはずだ。
よって私はひらけた場所に出るまで彼を尾行し、戦いを挑むことに決めた。
数分ののち、私たちはある程度木のない場所に出た。
ここなら戦える。
即座に判断した私は少年に声を掛けた。
ゆっくりと振り向いた少年は驚きもせずこう呟いた。
待っていたぞ と。
少年は私の尾行に気づいていたのだ!
気配を消し、出来る限り音を立てずに尾行したはずが見破られていた。
私にはもう我慢が出来なかった。
彼と戦いたい。剣を交じえたい。
はやる気持ちを抑え、私は少年に決闘を申し込んだ。
すると少年は 売られた喧嘩は買うタチだ と回りくどくも肯定した。
私たち2人の間にしばし沈黙が訪れる。
私はゆっくりと剣を構えたが彼はだらりと両の手を垂らしたままだ。
やる気が無いのか、余裕があるのか。
なぜか腹は立たなかった。
ガサッと小動物か何かが動いた音がした直後、私は動いていた。
声を上げながら剣を横薙ぎにする。
剣は確かに彼を捉え、その貧弱な胴を割った。
やった。私の勝ちだ。口ほどにも無い。
そう思った直後、斬ったはずの彼がぼやけて消えた。
ッ!
あわてて彼の姿を探す。
彼の分身が先ほどまであった場所から残像がザァッと伸びたかと思うと、
次の瞬間には目の前に出現しており、
剣で防御する間もなく細身の剣が喉元に突きつけられていた。
速い...速すぎる。
残像、ということは私の目が彼についていけなかったということだ。
師匠の厳しい修行を終えた私が認知できないものなど...
しかし、それは目の前に存在した。
「俺の勝ちだな...」
その言葉が発せられた直後、私は膝から崩れ落ちた。
自信やプライドが、その根底から崩れ落ちてゆく。
終わったのか...
その実感さえ沸かなかった。
生まれてはじめての惨敗。
私には手も足も出なかった。実力の差があり過ぎた。
私は彼を侮っていた。子供だと、差別していた。
視界がぼやける。私は...泣いているのか?
ぼやけた視界の中に、肌色のものが混ざる。
何だろう?これは...
ごしごしと目からあふれ出る液体を擦り取り、顔を上げる。
手だ。
子供にしてはごつごつしていて、傷がたくさんある。
ふと見上げると少し困ったような表情で彼が見下ろしていた。
ほら...
手を握って立て、ということなんだろう。
まさかこのような子供に手を貸されるとは...
ゆっくりと差し出された手を握ると、彼の手は温かかった。
少々形は悪いながらも、しっかりと私を支えてくれた。
まるで巨木の太い枝を握っているかのようだ。
有難う
無意識に言葉が口から出てきた。
すると少年は少しはにかんだような笑みを浮かべた。
その笑顔は暗かった私の気持ちを吹き飛ばし、何か温かなものを与えてくれた。
それは一瞬で消えてしまったが、私の中の温かなものは消えなかった。
俺はもう行くから...
そう言って彼は進んでいた方向へと歩き出す。
気がつけば私は彼の衣をつかんでいた。
どうした?
彼が無感情に聞いてくる。
でも、それは本当の彼ではないのだ。
私は無意識のうちに理解していた。
本当の彼は、さっき少し覗かせたような、温かで、やさしく包み込んでくれるような、そんな...
気がつけば口にしていた。
私を一緒に連れて行ってくれ、と。
少年は走っていた。
その隣をリザードマンの女の子が走る。
歳は2人とも10代、おそらく女子の方が年上であろう。
少年はペースを落とさず、息切れもせず走っているが、
女子の方は少しペースが落ちつつあり、息切れをし始めている。
この子、いや、この人の体力は一体どれほどのものなんだろうか?
青緑色の女の子は考えていた。
魔物である私の体力を上回り、ペースさえ乱さない。
いったいこの少年はどんな修練を積んできたのだろうか?
当人の少年は前を無表情に見つめ、走り続けている。
あどけなさのある顔つきだが、頬が少々こけており、不健康そうな印象がある。
だがその中ほどに位置する両眼は鋭い眼光を放っており、
瞳の深み
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