ヒトみな真剣たれ

危なげなくトントンと包丁を動かすテテにハラハラしながら、イアラはスープの味見をした。
彼が作ったオニオンスープは、普段と比べて味が若干薄くなってしまったが充分な出来栄えだった。
――集中力足りなかったかなぁ……。
そう思う彼の視線は三角巾を頭につけたテテに一点集中である。
指でも切らないかと心配極まりないらしい。

「……あ、あうぅ…………////」

そんな熱烈な視線を受けて当の彼女が恥ずかしがらないわけがない。
しかし自身を心配していることはありがたいため、邪険にもしづらく羞恥に耐えていた。
幸い、テテは料理をし慣れているので指を切るなどのミスはないがこれでは集中できない。
そう思った彼女はチラリとイアラの顔を見た。

「あ、あのぅ……す、スープはどうでした?」

自分から注意を逸らしたくて、彼女はそんな質問をかけてみる。
イアラはその質問を上の空で聞いて、相変わらずテテを注視したままコクコクと適当に頷く。
――ひぃーん……!
心の中で嬉し恥ずかしい悲鳴をあげて、彼女は器用にポテトを大ぶりに刻んでいく。
彼女はそのポテトをあらかじめブロック状に切ったベーコンとを油を引いたフライパンに入れたとき、イアラはふと窓から外を見た。
彼の視界に入ったルルシェ・アーシェルの離宮のテラスには、誰もいない。

『君は、ごく最近に魔物と接触した可能性が高い』

今日、彼は自分が接触した魔物を彼女と探し出す約束をしている。
その約束に彼は大きな疑問を抱いていた。
――仮に魔物が見つかったら、あいつはどうするつもりなんだろう……。
エンジェルであり、レスカティエの未来を望むルルシェは魔物が嫌いである。
イアラの理想にも、全てに賛同するつもりはないと明言している以上、彼女も魔物を否定するかもしれない。
――…………俺はどーすりゃいいのかねぇ…………。
小難しいことを考えるのが苦手ながら、彼は首を捻って考え込んだ。

「…………?」

唐突に視線を感じなくなったテテは小首を傾げながら、手際良くポテトに焼き色をつけていく。
ベーコンもカリッと仕上がり、彼女は満足したように大皿にジャーマンポテトを盛り付ける。
うんっ、と彼女は少し自身満々に薄い胸を張った。
そのまま彼女はジャーマンポテトの大皿とロールパンの入ったバスケットをキッチンから運び出し始める。
イアラもそれを見て我に返り、オニオンスープを二人分ついでキッチンから出た。

「おぉー……、うまそうなジャガ炒めだな……」
「じゃ、ジャーマンポテトって言うですけど……」

農家出身で上等な教育を受けていないイアラは、テテの言葉に素で感心した。
そうして思考を切り替えた。

「へぇー、そんな名前なんだ」

笑顔のテテの頬にたらりと一筋の汗が垂れる。
まだ彼女はイアラに出会って二日だが、ともに生活して彼の知識量のなさに愕然としていた。
それも、今までどうやって生きてきたのか、現在どうやって稼いでいるのか理解不能なレベルである。

「ま、何でもいいや。冷める前に食おうぜ」
「……うん♪」

――ま、いっかです!
今が幸せなテテはそれ以上を気にせず、手と手を合わせる。
それに習ってイアラも両手を合わせ、二人は快活に言う。

「「いただきます!」」

そう言ってイアラはジャーマンポテトを、テテはオニオンスープに手をつけ始める。
フォークで焦げ目のついたポテトにパクつき、黙って食う性分のイアラは淡々とフォークを進める。
テテはそんな彼の様子をハラハラしながら横目で見て、オニオンスープを一口啜った。
――ど、どうなんでしょうか…………。
人に料理を食べてもらったことがないテテは、緊張で胸がいっぱいである。
期待のような、不安のような視線を受けてイアラは居心地悪そうに目を逸らす。

「……あ、あー……、うめぇぜ?」

語彙がそう豊富にあるわけではないイアラは率直な感想を述べる。
妙な間があったことに若干の後悔を覚える彼だが、その言葉にパッとテテの表情が明るくなる。
――セーフ……。
つい最近もルルシェを泣かせたばかりの彼は、気遣いというものを考慮するようにしている。
もっとも、完璧には程遠い次第である。

「え、えへへ……、お野菜が新鮮ですから……」
「…………………だよな! さっすがテテ、分かってる!」

――ん?
その妙な間と、らしくなく明るくなったイアラの言葉にテテは違和感を覚えた。
短い付き合いであるテテは、彼のテンションが上がったところを見たことがない。
それゆえに、その一瞬の姿が嘘のようにブレる。

「ん? どうしたテテ?」
「……ふぇ?」

笑顔のままでテテに尋ねる彼に、彼女は思考から現実に戻される。
ぼーっとしていた所を見られたことに顔が熱くなり、テテはバタバタと両手を振る。

「やっ、な、何でもない
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