好きだらけな二人。

「あー……こりゃ完全に風邪だな」

魔王軍の砦の一室で、皮鎧に身を包んだ青年が苦笑いして言った。
その目の前には、鱗に覆われた大蛇の体をベッドからはみ出させながら女性がうつ伏せていた。
健康的な背中のラインにしっとりと汗を滲ませて、桃色の肌にツヤが出ている。
が、シューシューと鳴く髪の蛇もどこか力なさげで、その様子を見た青年は頬を掻く。

「……大丈夫か?」
「けほっ……、んなわけないでしょ……けほ、けほっ……」

普段であれば青年に噛みつかんばかりに罵詈雑言を並べる彼女も、少し辛そうに咳き込んでいる。
こりゃ重症だな……、茶化すように呟いて彼は腕を組んで渋い表情になる。
そっぽを向いたまま咳き込む彼女を気遣い、席を立つ。
立ち上がる彼の気配を察し、彼女はけほけほと咳き込みながら振り向く。

「ど、どこにいくのよネス……けほっ」
「俺がいたら休めねぇだろ? 俺ってばお喋りだし」

おどけたようにそう言い青年、ネスティ・アストレイは愛想笑いを浮かべる。
魔王軍には珍しい独身で、ベッドに伏せるメドゥーサのコレットの同期である。
無論、そんな彼を放っておく魔物が少ないわけもなく、毎日のようにアタックという名の襲撃を受けている。
当初はコレットの助力のおかげでその襲撃をやり過ごしていたという苦い思い出もあったりする。
そのおかげで気難しい彼女とは、比較的打ち解けている男である。

「けほっ、げほげほっ!」
「ほら、無理すんなって。医務室に看病呼びに言ってやるから」

咳き込む彼女をなだめ、ネスは部屋から出て行く。
待って、そう言おうとしたコレットの声は咳に掻き消され、彼の耳に届かない。
バタン、と閉じられた扉を恨めしく睨んで、コレットはポツリと呟いた。

「……一人にしないでよ、バカ」



「んー……コレットのやつ大丈夫かなー」

ネスは扉を閉めて呑気に呟いて、赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。
廊下はぽつぽつと人や魔物が歩いており、その大半は二人組みを作っている。
仲睦まじく腕を組む者もいれば、恥ずかしそうに顔を合わせずに手を繋いで歩く者もいる。

「……医務室ってどこだっけ?」

そんなものに関心などないネスは全く気にせずに首を傾げる。
体力にしか取り柄のない彼には完全に無縁な場所なため、知る由などあるはずがない。
そんなネスに、彼と同じくペアのいない白髪の魔物が歩み寄る。

「あら、どうしたのネスティ?」

その絹のような白髪には、覆い被さるように悪魔のような黒い角が生えている。
背中からはアルビノを思わせる翼の存在感もあり、どこかカリスマめいたものも感じる。
この砦の総指揮をするリリムの、ミネアだった。

「あ、ミネア様。医務室ってどこスか?」
「医務室……? 見たところ外傷はないけど、風邪でもひいたの?」
「はい、コレットが」

たはは、と笑いながら告げるネスに、ミネアは猫のように目を細める。
面白い暇潰しを見つけた、そんな風に口元にうっすらと笑みを浮かべる。

「残念だけど、今日は医務室のダークプリーストは休暇よ。今ごろ魔界でよろしくやってると思うわ」
「え、マジッスか?」
「マジよマジ。だから貴方が看病なさい。ほら、早く行きなさい」

そう言って彼女はネスの背中を押し、半ば強引に送り出そうとする。
唐突な命令にどぎまぎしながら、彼は自分を指差す。

「お、俺ッスか? でも俺、看病の心得とか知らないッスよ」
「そんなのいいのよ。大事なのは気持ちよ気持ち」

それに、とミネアは楽しそうに唇を歪めながら言った。

「不安なら私が教えてあげるわ……っふふ」



「へっくしっ! うぅ……悪寒が……」

ブルッと震える身体を抱いて、コレットは布団をかぶり直す。
ボーっとする頭は何も考えることができず、ただ一人部屋にいる寂しさが思考を埋めていた。
ネガティヴな思考は不安を呼び、益体もない不穏な想像が次から次へと思い浮かぶ。
例えば、このまま一人ぼっちで死んじゃうのかな、なんて。

(……ネスのバカ)

そのマイナス思考の中で思い浮かんだ、ライバルの名前に悪態をつく。

(心細いとか、寂しいとか言えるわけないじゃない……察してよ……)

けほけほと咳き込み、彼女は赤い顔を枕に埋める。
誰もいない部屋の中、じわりと浮かんだ涙が枕に沁みを作る。
その時だった。

「私は帰って来たぞぉ―――!」

唐突な扉を開ける音と、騒々しく部屋に入ってきた声にびくっと身をすくめる。
慌てて眼を擦りコレットが振り向くと、そこには中身が見えない籠を提げたネスの姿があった。

「ね、ネス!? な、何で!?」
「やー、なんか医務室が休みらしくてよ。代わりに看病に来た」

ベッドの傍に椅子を寄せて座り、彼は頬を掻きながら笑う。
そんな彼に頬が熱くなり、思
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