宗教国家「レスカティエ教国」
教団勢力の国家のNo.2であり、世界一の勇者産出国である。
そのレスカティエ中央部の、王城には教団屈指の強者が集う聖騎士団がいる
神の加護を受けた勇者は勿論のこと、その他にも多くの兵士が日夜修練を重ねている。
その聖騎士団の修練場のすぐ傍には、小さな離宮があった。
その離宮の庭で、エンジェルの少女は苛立たしげに爪を噛んでいた。
「………………」
視線の先には、人間の男が掛け声とともに剣を振っていた。
その男たちを指揮する修道服の男性は、先ほど町の子どもに暴力を振るっていた男だ。
前方不注意でぶつかった少年を怒鳴りつけ、平手でぶった男が教団の幹部である。
その一部始終を見ていた彼女には、彼が醜く見えて仕方がないのだ。
「やっぱり……、ヒトは下賎……ね」
ぶつけようのない怒りも冷め、彼女は諦めたように呟いた。
この国に来て、彼女は目を覆いたくなるような汚いものを幾つも見た。
我慢できずに口を挟みつづけた結果、彼女は教会の幹部連中に疎まれた。
そして、この小さな離宮に追いやられて暇を持て余す毎日を過ごしている。
修練場からふいっと視線を逸らし、彼女は庭から離宮内に戻ろうとした。
ちょうど、そのときだった。
「そ、そこのお嬢さん……!」
誰もいないはずの庭から、聞き覚えのない声がした。
か細く小さな声だったが、どこか必死の色を滲ませていた。
声の主を探すように彼女はきょろきょろと庭に視線を巡らせるが、それらしき人影はない。
「だ、誰……?」
後退りながら誰とも分からない人物に問いかける。
情けないことに、少しだけ声が震えていた。
羞恥に頬が赤く染まり、彼女はキッと庭を睨みつけた。
「で、出てきなさい! ここは私、ルルシェ・アーシェルの預かる離宮ですよ!」
咎めるように言うと、その言葉に反応するかのように隣の茂みがガサッと揺れる。
「ひっ……!?」
予想外の位置からの反応に飛び退き、彼女は小さな悲鳴を上げてしまった。
テラスの石柱の後ろに慌てて隠れて、ルルシェは未だに揺れつづける茂みを凝視した。
そのまま待っていると、茂みから手がにゅっと生えた。
「え゙っ!?」
さすがの彼女もびびった。
その手はわっしと地面を掴み、踏ん張るように地面に指を食い込ませている。
間髪なく茂みからもう一本の腕が伸びてきて、同じように地面を掴んだ。
そして這い出るように、茂みからヒトが出てきた。
「なっ、だ、誰なの君! 人を呼ぶよ!?」
「だァ――ッ、ちょ、ちょっと待って! 別に怪しい者じゃないから!」
「庭の茂みから出てきた人を怪しいと思わない奴なんていないから!」
「ですよね、でも待ってくれると嬉しいなって思うわけでソコんとこ汲んで!?」
どこからどう見ても不法侵入者だ。
慌てたように建物の中に逃げ込もうとするルルシェを、彼は必死に引き止める。
わけが分からずに応酬を続けるルルシェは、彼が着ている皮鎧に気付いた。
レスカティエの兵士が着る皮鎧、即ち、この国の人間である。
「貴方は……、聖騎士団の人?」
「はい……? ん、んー……まぁ、一応そうだけど?」
「……何よさっきの間は」
――こんなマヌケな人が、この国の兵士なの?
呆れのような疑問を浮かべつつ、ルルシェは警戒を解いた。
間の抜けた表情で彼女を見上げる人物から、彼女は微塵も悪意は感じられなかったからだ。
「あー……、じゃあ説明するからさ、とりあえず上がっていい?」
「構わないけど……、襲ったら人を呼ぶから」
冷ややかな視線でそう告げると、何故か当の本人は更に間の抜けた表情になった。
それから数秒して、彼女は首を傾げた。
「襲う? 誰が? 誰を?」
無垢に尋ねるその人物に顔をしかめて、ルルシェは癇癪を起こしたように叫ぶ。
とぼけたようなその人物の態度が、虫の居所が悪い彼女には腹立たしかった。
「君がッ、私をよッ!」
苛立たしげに吐き出した言葉を聞いて、這いつくばっていた人物は頬をポリポリと掻いた。
微妙な面持ちで彼女を見つめ、あー……とか言いながら苦笑いしている。
疑問と苛立ちを織り交ぜた視線を投げると、彼はようやく起き上がった。
彼が着ている皮の鎧の胸部にある紋章に、ルルシェはあっと声をあげた。
「一応……勇者の候補だし……、そんなことしないぜ?」
――――――
「ご、ごめんなさい……、そ、その……ちょっとイライラしてて……」
「誰だってそんな時あるって! ドンマイ、気にすんな!」
無礼を悟ったルルシェは態度を改めて彼女を迎え入れた。
テラスの席に二人向かい合って座り、時々思い出したかのように紅茶を飲んでいる。
豪快に笑う彼に赤面して、ルルシェは唇を尖らせる。
「いやー、笑った笑った。面白
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