未踏破地探索 サンドウォーム編

 日が傾いてきたとはいえ、未だに暑さが残る、砂漠の中。しかし暑いと言っていられる余裕は既に存在しない。サンドウォームの群れは人間を遥かに凌駕する巨体を持ち、そこからは想像の出来ないスピードで動き回りながら我々への包囲網を狭めていった。
「砂の中から来るぞ!!」
隊長が叫ぶ。あまりの絶望的な状況に混乱した仲間達は闇雲に砂に向かってライフルを乱射した。サンドウォームたちは大人の人差し指ほどもあるライフル弾を物ともせず、徐々に間合いをつめていった。砂によって大きく減衰した弾のスピードはあの魔物に有効な一撃を加えることが出来ずにいる。「無駄弾を使うんじゃない。出てきたところを狙うんだ!!」隊長が再び怒鳴る。皆は少し落ち着きを取り戻し、砂の動きを冷静に見て自分の敵がどこにいるのかを判断しようとする。だが、相手もそれを察したのだろうか。砂は急に沈黙を保ち始めた。

さぁ、出て来い……

心の中で呟く。人間の数倍はある、あの巨体に対する武器としては、あまりに心許ない銃であったが、それでも俺にとっての最後の希望であった。この細い筒だけが俺達を死の淵から救う可能性があったのだ。砂漠の暑さすら遠くに忘れさせる緊張の中、砂の中から奴が飛び出してくるのを辛抱強く待ち続ける。誰一人として口を開けようとしない。
何が起きても対処が出来るよう集中を切らさず辺りを警戒している。皆はどの方向から襲われても対処できるようにゆっくりと隊列を形作っていった。

 一瞬の叫び声。誰もがその声のした方に向くが既にそこに仲間の姿は無く、彼の帽子だけが転がっていた。隊の全員に緊張が走る。さあ、次は誰が犠牲になるのだろうか。そう全員が考えていた時、ふいに砂の中から一本の巨大な塔が伸びたかのように見えた。
皆はその塔が、サンドウォームの本体であることに気づく。誰もが今まで遭遇したことも無い圧倒的なサイズのサンドウォームに唖然とした。程なくして無数の銃声と共にライフル弾が飛び交う。幸い、的は大きく、ライフル弾はどんどんと吸い込まれていく。直接サンドウォームに弾が直撃するが、あの硬質な体に対しては塵芥に等しい威力であったらしい。対した外傷を与えることも出来ず、弾き返されていく。
その無意味な攻撃がわずらわしかったのか、サンドウォームは巨体を砂に強く叩きつけた。その巨体は凄まじい風を巻き起こし、辺り一面は砂煙で何も見えなくなってしまった。
何も見えない。僅かに数発の銃声だけが聞こえる。俺は急に砂漠の中に取り残されたような錯覚に陥った。今こそが逃げ出す唯一のチャンスではないのだろうか。視界は最悪ではあるが、それは相手にとっても同じことだ。俺は銃を背中に背負うと一目散に野営地の方向に向けて走り出した。
悪い視界の中、微かに見える日の光だけが俺の頼りであった。あの化け物に対して俺らに勝ち目が無いのは目に見えているし、何も全滅することは無い。せめて未開拓地帯が自分達の手の届かないところにあったことを国に戻って伝えることさえ出来れば、それ以上のことはしなくて良いと判断したのである。他の仲間たちも同じように判断したらしく、皆が思い思いの方向に、蜘蛛の子を散らすかの如く逃げていった。


 どれだけ走っただろうか。太陽の光を頼りに真っ直ぐと野営地向けて進んだつもりだが、一向に見えてこない。先ほどまで一緒に居たはずの仲間達も魔物の餌になってしまったのだろうか、徐々に数を減らしていって遂には俺一人になってしまっていた。どうやら逃げて切っても、逃げなくても俺の運命は変わらないようである。ただ広大な砂漠に一人。銃も無我夢中で逃げ回っている間に落としてしまったようだ。俺に残されたのは僅かな食料と水だけ。足元と頭上から物凄い熱気が俺を包んでいく。俺に出来ることはただひたすら死を待つことであるように思えた。


 砂丘がどこまでも広がる砂漠の中、ひたすら歩き続ける。調査団に志願した以上、最悪のケースとして死ぬことは覚悟していたが、よもやここまで早々にその時が来るとは。俺には残してきた家族も居ない。昔からの友人は多分悲しがるだろうが、既に別れは済ませてきたのだ。外の世界を知るのが夢であり、それが夢半ばで終わってしまうのは残念である。外の世界は人間に対してあまりに過酷だったのだ。せめて、もう一度だけどこか安全で快適な所でゆっくりと眠ることが出来ればどれだけ良かっただろうか。


 日が暮れて、大分涼しくなってきている。朦朧としつつ歩き続けていると突然地響きが聞こえた。遂に自分の番が来たのである。程なくしてサンドウォームの巨大な体が目の前の地面から飛び出し、俺を見下ろす。ここまでかと思い、目を瞑って視界を闇に閉ざした。死を目前にしているにも関わらず気分は意外と落ち着いていた。徐々にあの巨体が近づいてくるのが分かる。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33