町の近くにある森。自然の木々によって築き上げられた広大な緑の自然。
そこを一人の青年が訪れる。
彼はよく、ここに来ては絵を描き、自然に耳を傾け、堪能していく。
「……気持ちのいい日だ……」
空は快晴。太陽が照りつけるが、蒸し暑くなくて風が涼しい。
木陰に座り、幹に背を預けて、風に凪ぐ木の葉のさらさらという音に傾ける。
本当に気持ちのいい、心地のいい日。
手に持っている絵を描くのを一旦止め、目を閉じて聞き入る。
「――――――」
すると何か声が聞こえた気がした。
何だ、と思い、目を開いてあたりを見る。が、何もない。何もいない。
気のせいだなと勝手に解釈し、途中だった絵を描き上げる。
出来上がったのはそこから見える森の風景。木々がそびえ立ち、多種の花が咲き乱れ、優しく温かな光が木漏れ日として地面に降り注いでいる。そんな神秘的で幻想的な、美しい絵。
「……よし、出来た」
その一枚が仕上がると、また目を閉じて自然をもう少し堪能する。風を感じて、日を感じて、小鳥のさえずりを聞いて、木々の音を聞いて。
そして「よし」と小さく呟くと立ち上がり、道具を片付けて森を去る。
彼が立ち去った後、彼が背もたれにしていた木の上に、ひとつの影が。
「…………にんげん…………」
その声には憎しみを孕んでいて、影から除く双眸で去って行った方を睨み、歯を食いしばっていた。
――――――――――――――――――――
「ただいま」
あまり暗くなく、しかし明るくもない声で家に入る。
誰もいない、薄暗くて部屋もひとつしかない家。しかしそこにはたくさんの絵が飾られていて、明かりを灯せばそれらが笑顔のように明るく出迎える。
緑いっぱいの森の絵。天から降り注ぐ一筋の光の絵。穏やかに揺れる波の絵。楽しそうに賑わっている町の絵。闘技場で戦う戦士の絵。遊び疲れて眠っている子供たちの絵。澄み渡った空の絵。険しくも雄大な山岳の絵。愛し合っている恋人の絵…………本当にたくさんの絵が飾られている。
これらの絵は全てこの青年――シックが描いたものだ。大作から失敗作まで、全てで二百を超える。
彼は趣味で絵を描いている絵師だ。そしてたまにそれを露天として売りに出している。それが意外にも稼ぎになり、完売することもある。
炊事場に立ち、適当に料理を作ってそれを食べ、そして床についた。
これらが彼の普段の生活。朝起きては森や海といった自然の場所や町へ行って観察し、絵を描く。家に帰ってきたら今度は想像での絵を描くか、ぼーっとした後に料理をして食事を摂る。そして食べ終わるか夜になったら寝る。彼の生活の基本だ。
稀に絵を描かず散歩だけしたり、町へ出て買い物をしたり、露天で絵を売ったりとするが、それ以外はたいして行動は変わらない。
「…………明日は、どうしようかな…………」
明日のことを考えながら眠りの世界に飛び込み、そして夢の世界へと足を踏み入れた。
シックは一人っ子で、父と母は共に絵とは関係なかったのだが、どういうわけか昔から絵が好きな子だった。
だからといって軽蔑も差別も虐待もなく、むしろ両親は喜んで絵を描かせていた。
我が子が興味を持ち、才能が開花されることは嬉しく、喜ばしいことである、と。
そして彼は自然もこよなく愛していた。波の音を聞きに浜辺へ行き、木漏れ日を感じに森へ行き、雲を眺めるため宙を仰いでいた。それから人の動きも見るのが楽しくて、町へ出かけては見て回った。
絵を描くために、旅をしたこともある。ジパングへ行ったり、砂漠地帯へ行ったり、北の方へ向かったり……様々なことろで絵を描き、堪能してきた。
常に絵描きの道具を持ち歩いて、目にしたものは絵に残し、記憶に残してきた。
絵を描くのが楽しくて、それを両親に褒められるのが嬉しくて。そのおかげで彼の描画、図絵の技術はさらに増していき、子供のお絵かきから大人の絵画になっていった。
そんな両親も、彼がまだ十三の頃に亡くなってしまい、今は両親と共に暮らしたこの家に、ひとりで暮らしている。
『お父さん、お母さん。見て、森に行ったらこんなのが見れたよ!』
彼がまだ幼い頃。森に出かけてみると、とても綺麗な六色の虹が空にかかっていた。
それを子供ながらにうまく描き表している。
『あら、綺麗ね。でも雨なんて降ってたかしら……』
『いや、降ってはいなかったと思うが……それにしてもいい絵だな。うまいぞ、シック』
不思議に思われながらも、両親は彼の絵を褒めて、父は頭を撫でてくれた。
虹が見えたのは本当だ。彼自身も不思議だったのだが、それでも絵に残した。
陽の光で目が覚め、ゆっくりと目を開き、上半身を起こす。
「……また、懐かしい夢だな……」
自らの過去の夢。子供の頃に描いた、森に
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