交わった妖怪と人間

 「はっ!あっ、ぶわぁ!た、たすけっ、て!」
 川の真ん中、足がとどかないくらい深い所で、小さな男の子が溺れていた。
 彼の手には何か小さな物が握られている。それが川に落ちて、取ろうとしてあんな所まで。
 それを見ていたから知ってる。全部、この上空から、彼のことを見ていたから。
 そのうち、誰か人間が彼を助けに来るだろう。
 「あっ!だ、れか・・!たす、け・・・!」
 ・・早くしないと、誰か助けてあげないと・・・・あの子が死んでしまう・・!
 近くは誰も通りそうにない。
 早くしないと・・・。
 「はがっ、あ、ぁ・・・・・・・・」
 そうこうしているうちに、苦しそうに、腕を上げて、冷たい水の中に沈んでしまった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 現在、蝉がギターのように鳴き喚く、太陽がギラギラと輝く、汗ばむ夏。
 しかしそんな季節でも夜になると少し冷える。それが山林の中ならさらにだ。
 「・・駄目、か・・・」
 その中を一人歩いている。
 彼の名前は黒尾(くろう)宮路(みやじ)。彼はよく夕暮れにこの山林に入り、登って、下る。山林を下る頃には、もう日は沈み、というか真夜中を過ぎている。その間、ずっと何かを探すように、上や下を見回している。下だけなら落し物だろうが、上も見ているということはそうではない。何か生き物でも探しているのだろうか。

 「・・・もう、下るかな・・・」
 彼が下る時間はバラバラで、日が変わる前に下る事もあれば、長いともう朝になる頃に下る事もある。今回は日が変わって少し時間がたったくらい。簡単に言えば二時過ぎ。
 「何か、探しものか?」
 その声はどこから聞こえたかわからない。だが、位置的に後方だろう、という事はわかった。
 「どこにいるの?」
 辺りを見渡すが、彼の目には、夜の闇に染まった木々、その陰に覆われた土、そして彼が持っているライトで照らしている道。やはり、人の影らしきものは見えない。
 「どこを見ている?上だよ」
 そう言われて、宮路は自分の背に位置している木の上に向けて目線を上げる。
 その視線の先には、木の枝に座り、足をぶらぶらとしている少女がいた。もう夜遅く、日も変わっているので、彼女の姿はほとんどシルエットでしか見えないが、声から女の子であろう事が想像できた。
 「こんにちわ」
 「・・こんばんわ、だね。今は夜だよ?」
 「・・・うん、そうだな。こんばんわ」
 そんな奇妙なやり取りをして、彼女に問う。
 「そんなところで、何してるの?」
 「まぁ、何をしているかと言われれば、なにもと答えるしかないな。強いて言うなら、お前を見ていた」
 「へぇ、監視?」
 「そうではないが」
 「ふーん。でも、それより、危ないよ。早く降りなさい」
 「ふん・・・確かに正しい。だが間違っている。」
 その矛盾した答えに、彼は戸惑う。
 彼がその答えの意味を考えていると、突然少女はそこから飛び降りた。
 「え、ちょっ!」
 彼は彼女を受け止めようと、着地するであろう所に駆け寄る。だがそれも無駄に終わり、彼女は羽ばたき、ふわりふわりと、ゆっくり舞い降りた。
 「・・・え・・・?」
 「危険ではあるが、私にはそうではない」
 彼女にライトを当て、照らす。そこでやっと、彼女がどのような生物かがわかった。
 彼女の腕は烏の漆黒に染まった翼のようで、彼女の足は烏の足のよう。身につけているのは山伏に似たもの。その少女はカラステングだった。彼女の瞳はルビーのように紅く、顔立ちは愛らしくて美しい。その彼女に、宮路は見惚れてしまった。
 「私はカラステングの京(みやこ)。お前は?」
 「僕は黒尾宮路。言うまでもなく、人間だよ、京さん」
 「さ、さん!?・・こほん!こんな夜に何をしている?危ないだろ、人間」
 「・・心配してくれるの?ありがとう」
 宮路は微笑み、まるで子供に接するかのような感じで、彼女の頭を撫でる。
 「――っ!!」
 すると彼女は、京は頬を真っ赤に染めて恥ずかしがっている。それでも、知ってか知らずか、気にせずに撫でる。
 「や、やめろぉ・・・」
 何か弱弱しく、恥ずかしそうに、上目遣いで、彼の顔を見て言う。今までそんな風に触れられたことがないのだろう。
 彼は彼女の頭から手を退けると、さっきまでの強気な表情と物言いに戻った。

 二人は歩き出し、宮路は帰宅、京は彼に付き合って、山林を下り始めた。
 「お、お前は、こんな時間まで、ここで何をしていたんだ?」
 「・・・そうだね・・探し物、かな」
 「さがしもの・・?それはいつのだ?」
 「手伝ってくれるの?」
 彼はまた微笑んで彼女の頭を撫でようとするが、彼女は後ずさりをしてそれを避ける。
 頬を染めて、やめろと言わんばかりの目つきで彼を睨み見る。
 何
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33