〜ハードモード〜

 M県E市。海を渡った新天地で心機一転頑張ろう! なんて思えるのは学生の頃まで。社会人二〇年目のいい歳したおじさんが間違っても言えることではない。先のプロジェクトが頓挫し、責任を取らされる意味で左遷。エリート街道から転げ落ちた俺を待っていたのは、窓際の特等席だった。本社から来たエリート様といった同僚や部下の視線が痛い。大した仕事が降られないのは来て間もないからか扱いに困るからか。この扱いは苛立つところだが仕方ない。むしろ居心地の悪い職場から定時で帰れるのはある意味救いと言える。しかしこんな生活が定年まで続くと思うと憂鬱で、その前に首を斬られたらと思うと更に憂鬱だ。
 家に帰れば息子のユウと二人。妻は実家へ帰省中。離婚はそう遠くないだろう。本社での出世の道絶たれ給料も下がった。こないだまでの給料をこっちでもらえるようになるのが先か代謝が先か。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。
 こっちで暮らすようになって、ユウと話す機会が増えた。ユウがやっていたゲームを暇つぶしにやってみたところこれが面白く、ハマってしまったのだ。また、ゲームのキャラクターは可愛く、セクシーな子が多い。俺がガキの頃では身の回りにこんなものがあふれているなんてまず考えられなかった。これでは俗にいう“草食系男子”が増えるのも無理もない。
 そんなこんなで息子と話が合うようになり、一緒にゲームをする休日が増えた。そんな折、家から五分の場所にあるMバンクホールにて、大規模な最新ゲームの発表会『ザ・ゲームショウ』が開催されると聞いて息子と行くことに。朝四時に起こされたのは辛かったが、親子の触れ合いに積極的なユウを見ると嬉しかった。
 しかし、話が合うようになったと言っても歳の差は埋められない。人混みの中をスイスイ抜けていくユウについていくのが精いっぱい。さらにふっとほんの一瞬目を離したせいで、姿を見失ってしまった
「おーい、ユウー! どこだー!?」
 呼びかけてもこの人混みではどうにもならない。どうせ家は近いんだ。腹が減ったら帰ってくるだろうと切り替えた私は、自分のペースでブースを見て回ることにした。アプリ連動型トレーディングカードゲームのお披露目会をしているというブースでは、ディフォルメされたタコの着ぐるみがくるくる回っていた。カードゲームは絵柄は綺麗だがルールを覚えるのが大変。ユウもやっていないのでは、覚えても遊び相手がいない。そう出来ないりゆうを浮かべつつも、つい発表の最後まで見てしまった。今度試しに一パックくらい買ってみるのもいいかもしれない。

 時刻は12時。そろそろ昼食にするかと思い来た道を引き返していると、遠くにユウを見つけた。声をかけたが遠すぎたかこっちには気づかず歩いていってしまう。しかもそれは出口とは反対側。どこへ行くのだろう? とにかく今度は離されまいと必死に人混みをかき分け、会場の端の方へと進む。声をかければ気づきそうな程人がまばらになって、ユウの先を進む……シスター? が目に留まった。どうやらユウはあのシスターについていっているらしい。気になって、声をかけないまま尾行を続ける。二人は階段を上がっていくが、二階は会場じゃないはずだ。
 階段を上がった二人がひょいと曲がって姿を隠した。駆け出せば目立つと思いゆっくり後を追ったが、結果裏目。階段を上った先に二人の姿はない。
「おーい、ユウー! どこだー!?」
 返事はない。どこかの部屋に入ったのだろうか。スマホで電話をかけてみるが、出ない。もっともユウは基本的にスマホをドライブモードにしているから普段通りと言えば普段通りなのだが。
「困ったな」
 ユウも成人してないとはいえもう子供でもない。家も近いし、頬っておいても大丈夫だとは思う。しかし知らない人に連れていかれて姿を消したというのは、事件と判断するべきだ。
「あの、どうかされました?」
 スタッフを呼ぼうと引き返し始めたその時、後ろから声が聞こえた。綺麗な声だ。振り返ればさっきユウの前を歩いていたシスター。金髪碧眼の絵にかいたような美女だ。
「えっと、ユウは……さっき一緒に歩いていた男の子、うちの子なんですよ。今どこに?」
「お父様でしたか。これはご心配をおかけしました。お子さんなら今、VRゲームの体験プレイ中でございます。そのゲームというのがまだ開発段階でなかなか公に出せないものでして……こうしたイベントでランダムにテスターを選んで、体験版をプレイしてもらってるんですよ」
 流暢な日本語。しかしその内容は半分ほどしか入らない。修道衣に浮き出る彼女の身体のラインがどうにも綺麗で、つい目が行ってしまいそうになるからだ。
「どうでしょう? お父様も是非、タ・イ・ケ・ン、してみませんか?」
 ユウの居場所は分かった。これで安心して家に帰れるとい
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