独りのグルメ 大阪市中央区谷町のポンジュースと肉まん

「ああ、もうこんな時間か」

 時計を見れば針は午後3時前を指していた、昼前からはじまったクライアントの打ち合わせは予定を2時間オーバー、これだとコインパーキングは上限料金いっちまってるだろう。

 思わず口から溜息が漏れる、経費がかさめば上司にとっていびりの材料になる、公共の交通機関を使えばいいのだろうが、中小企業のサラリーマンにとって、車というフットワークの軽さは大事なのだ。

「折角だ、何か美味いものでも食って帰ろう」

 打ち合わせを頑張ったんだ、上司は当たり前のことでは褒めてくれない、せめて自分自身に褒美でもだそう、コインパーキングの途中に洋食屋があったはずだ、空腹も後押しするようにし次第に俺は早足になっていた。

「あれ、確かココに……」

 仕事で何度か通った場所だが、どうやら道に迷っちまったらしい、少々困った現実から軽く逃避するためシガーケースから煙草を一本取り出し、火をつけ紫煙を軽く吸い込む。

 キール・ロワイヤルの香りのシャグが焦る気持ちを押さえ、少し冷静さを取り戻させる、どうせ上司に怒られることは変わらない、少し迷子でも楽しもうか、そう思えば気持ちが少し楽になり、しばらくすれば一軒の喫茶店が目についた。

「Kaffee Marderhund、Cafeじゃないのか?」

 そう軽く疑問を持ちながら、その小さな店に近づいていく。

「ああ、いいじゃないか……」

 古き良き時代の喫茶店、それが俺の目の前にある入り口の扉も丁寧な細工が施されており、まるで中世の町並みが残るヨーロッパの田舎町にでも来たかのような錯覚に陥る、俺もあの上司のいる会社を辞めこういう喫茶店の店主になるのもいいだろうな、そんな妄想を広げていると俺の腹の虫が恨めしそうな声をあげ、空腹だった事を思い出させる。

 軽く食事もできるだろうコーヒーとサンドイッチもいい、いや、喫茶店といえばナポリタンやピラフも捨てがたい、まああればの話だが。

 喫茶店の食事といえばどうも子供の頃を思い出す、共働きだった俺の両親は働くことに一生懸命な人だった、俺の食事といえば近所の喫茶店か食堂だった。

 喫茶店で食べたカレーを思い出す、カツカレーやエビフライカレー、そう揚げ物とカレーの相性の良さを初めて認識したのは喫茶店で食べたあのカレーだ、そうだ、カレーがあるならカレーを頼もう、できれば大盛りがいい、俺は扉のノブを掴み、喫茶店の中へと足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ〜。」

 鈴のような可憐な声が響き、目の前には一人の女性、おそらくこの店のウェイトレスが俺を出迎えた。
「お1人様ですか?」
 思わず俺はそのウエイトレスさんに見とれていた。

 美人だから?
 もちろんそれもある、整った顔立ちだが、どちらかは綺麗と言うより可愛い顔立ちだ。

 好みだから?
 もちろんそれもある、柔らかそうな髪、綺麗に切りそろえられた前髪の辺りにこれまた綺麗に揃えられた素晴らしいおかっぱの髪、この髪型だけで清楚な雰囲気が伝わってくる。

 巨乳だから?
 もちろんそれも、非情に重要ではあるのだが、問題はこのウェイトレスの格好だ、この古く由緒正しい店構えとは真逆の格好、そうアンナミラーズの制服を着ていたのだ。

 アンナミラーズといえばご存知だろうか? そのウェイトレスの制服は胸を強調する独特のデザインで人気が高く、漫画やアニメやゲーム等にも多くの影響を与え、この制服を元にしたギャルゲーのリアル喫茶店が、いわばメイド喫茶のルーツとも言われている。
「あの、お客様?」
 しかし残念ながら非情に高級であり、一時期は関東圏で20店舗を超える勢いであったのだが、現在は一店舗のみ、かくいう俺も昔、横浜ランドマークプラザ店に行ったことがあるのだが、心の中で大きく
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡
と叫んだものである。
「お客様?」
 いやまさか、その制服がこうしてお目にかかろうとは、奇跡という言葉が薄っぺらく感じてしまうほどだ。
「あの……。」
 ちなみにアンナミラーズの親会社はあの井村屋である、そう肉まんあんまんでお馴染みの井村屋なのだ、もうほんと、肉まんとあんまんの特大なのが目の前にででーーーんと!!
「お客様、お一人ですか?」
 ああ、肉まんとあんまんが腕で隠され……ああ、いかんいかん。

「あ、独りです。」

 そして俺は席に案内された、店の中はそんなに広くなく、年代物の食器や置物良い雰囲気をかもしだしている、こういう空間の中で落ち着いた音楽を聞きながらコーヒーを飲むのは非情に贅沢だろうな、そう考えてくるとあのウェイトレスがお冷とおしぼりを持って来る、いやあ、やっぱり破壊力高いはこの肉まんとあんまん!

 不思議なことにこの店は、このウェイトレス以外人
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