「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」
世の中には力っちゅうもんは色々ある、武力に魔力に魅力と例を出すとわっかりやすいやろ?
せやけど世の中、まあ、魔界より人間界の方に効果的な力がある。
それは銭の力、いわゆる経済力っちゅうもんや。
魔界では愛する旦那さんといちゃいちゃすりゃ、病気もせーへんし、腹も減らん、眠らんでもええ。
せやけど人間の世界やとそうはいかへん、何をするにも銭、銭、銭、銭がいる。
下手すれば武力さえも銭で兵隊を買えば補うことができる。
ぶっちゃけ銭さえあればなんでも買えんねん。
え? 銭で買えへんもんがある?
そりゃ銭の価値に完全に無縁なもんしか言われへん言葉や。
銭で買えんへんて思うてるもんは、銭で買えへんのちゃうねん、金額が足らんだけや。
あ、長々と喋って自己紹介がまだやったな。
うちの名前はカエデ。
魔物娘の中で一番銭の力を使いこなせる、刑部狸のカエデちゃんや。
さてうちは今、とある商人さんの雑貨屋で世話になってる。
その商人さんっちゅうんが、これがまたお人好しで商売が下手……優しすぎるんやね。
商売人っちゅうんは、時には非情にならなあかん、それができへんここの商人さん……あ、マルシェさん言うんやけどね。
優しくて、夢の事話す時の目がキラキラしててな、ふわっとした笑顔が可愛いんよ……。
おっと、話しがそれるトコやったわ。
そのマルシェさん商売が下手な上に運が悪い、この店を開いて一年近くたってコレから軌道に乗るっちゅうところでお客さんやった人に従業員引っこ抜かれてもうたんよ。
しかもその元お客ってのがたち悪い事に、マルシェさんの悪口広めるわ店の悪評を広めはったんや。
根が真面目で一生懸命やってはったのに、従業員の連中が向こうの店におるから妙にその悪口がしっくりしてもうて、常連さんも引っこ抜かれはったんよね。
まあこれもまあ銭の力のなせる技よ、従業員言うても契約して銭払っているからには銭に縛られてるんやし。
たとえマルシェさんがやってないことでも、その従業員によーさん銭ばらまいて口裏合わせるのもできるわね。
そうやってようさん銭稼げるんやったら、そういう投資もアリやね……その元お客さんマルシェさんに比べたら商売人としては一枚も二枚も上手かもしれへん。
ただそれで銭の花咲かせたとしても、綺麗な花は咲かへんやろうけどな。
で、従業員がおらんで困ってるところに来たんがうちやったんよ……ほんまマルシェさん運が悪いで。
「ああ、カエデさんもうお仕事の時間は終わってますよ。」
「ええ、帰る前にちょっとお掃除でもと思いまして。」
この申し訳なさそうにしてる幸薄そうなお兄さんがマルシェさん、一応うちの勤務時間は終わってるんやけど店の掃除してるんよね……居残ってでもお店の為に頑張ってますよってアピールってポイント高いし。
ほら、マルシェさん従業員に裏切られてるやん、こうやって尽くしてくれる子ってのはツボにハマる思うんよ。
「でも、悪いですよ……。」
「いいですよ、神は細部に宿る……こうして綺麗にしておけば、お客さんまた来てくれますって。」
この神は細部に宿るはウチの一族の秘伝書、商売の心得の基本やったりする、ほら、おトイレ汚いとこより綺麗なとこの方がエエ気持ちになるやろ?
そういう細かいところに気持ちが行き届いてる店は、お客さんの印象も良くなるんよね。
「それだといいですけど。」
辛気くさい溜息をついて、店内を眺めるマルシェさん、笑ったほうがええのに勿体無いなぁ……ほな、そろそろウチの作戦を実行に移させてもらいましょうか、ほんま運が悪いな、マルシェさん……この店うちが乗っ取るさかい。
ひと通り掃除も終わらせてると閑古鳥のこのお店の閉店作業も終わったみたいで。
「お疲れ様です、冷たいものでもいかがですか?」
気ぃきかせてマルシェさん、冷たい飲み物持ってきてくれはった、従業員が勝手にやってることをほっといたらええのに、ほんま商売下手やわこの人。
「ありがとうございます、丁度喉が乾いてたんですよ。」
そのままうちが飲み物を手にとろうとすれば、うっかりうちの手が滑ってしもうて、飲み物がうちの胸元にこぼれてしまう。
いやーほんま偶然やわ、ちなみに偶然にうちブラつけてへんかって、偶然薄めの色合いの胸元の生地が薄い服着てきてしまっててん、ほんま偶然やわーー元々汗で少し張り付いてたから偶然マルシェさんがうちの胸元見てたさかい、偶然に手が滑ってもうたんよ、ほんま偶然って怖いわー。
「あん、冷たい!」
もう飲みもんなんかこぼしたさかい、うちの自慢の胸がくっきり目立ってしまってまうやん
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