「キャンサー、どんな手を使っても…私と共に頂点に立つぞ!」
深夜の交番の中。
奥の狭い部屋から、久々と声がきこえてくる。
その中には…しかし、人影はたったの一つ。
たったひとり、二十代の男がいるのみだった。
その男は、何やら鋏のような…手甲のような。
カードの入った武器に向けて、なにかを話していた。
「はい、わかってますよ。」
しかし男がイカれている、という訳でもなさそうだ。
そのカード入りの籠手は、男の言葉に反応して、何かを話している。
「本当だな?まず厄介なのは白蛇…それとドラゴンだな。」
男は奥のホワイトボードに、次々に文字を書いて行く。
「はい、彼女らの危険さは理解してます、しかし…」
「何だ?」
「…それなら、どうして私に精を食べさせてくれないのですか?」
籠手が不満な顔をするというのも可笑しな表現だが、たしかに
彼女は不満そうな表情、に見える。
「そういうな、キャンサー。それはルール違反だ。」
彼はホワイトボードを裏返した。
そこには、《キャンサーにもわかる!簡単なルール》とあった。
『その1、まずこのゲームは最後までリタイアせず、勝ち残ったら優勝だ!』
その1、それは彼女にも納得らしい。
彼女はうんうん、と頷く。
『その2、参加者同士のバトルは魔界で!迷惑になっちゃうぞ!』
その2は実際のルールでは無いが、彼なりのルールである。
キャンサーもそこは理解している。
『その3、カードデッキは守る!破壊されたら即リタイアだ!』
これに至ってはキャンサーは説明は要らないとさえ思っていたが、彼の脳内を整理するために書いたのだろう、と納得する事にした。
『その4!精を取らない!魔物娘に食われると、リタイア扱いだ!』
「何でですかぁぁ
#8252;」
彼は困ったように頭を抱える。
なぜ、と言われても…それがルールだから、としか言いようがない。
彼自身このゲームを始めたのが「非常に興味深いから」であり、ルールの意義は良く分からない。
いつもの犯罪者相手なら「ルールを守るのは他の奴のためだ!」と言えるのだが、この辺は良く分からない。
「まあ、恐らくこのバトルが終わったら良いのでは無いか?頂点を目指す。いいね?」
「アッハイ…」
納得は出来ないようだが理解はしたのだろう。
彼女の宿る鋏の手甲をそっと撫で、彼は仮眠についた…
「キャンサー、行くぞ!」
男の怒鳴り声、それだけが朝の警察署に響いていた。
「ふぁい…え、まさか敵ですか?」
「そうだと言ってるだろ!」
かなり、男は不機嫌である。
敵、それは果たして誰なのか?
「えっと、敵はどなたですか?」
「…ヴァンパイアだ、魔界に行くぞ!」
彼はキャンサーの鋏を手に取り、鏡の前に立った。
男は鏡の中に吸い込まれる。
すると、後ろの剣を構えていた男も、同じく鏡の中に飛び込んで行った。
淫靡な空の色。
辺り一面に漂う、異様な空気。
天高くそびえ立つ、ラブホテルでも見た事がないほど立派な城。
「キャンサー、行くぞ!」
「ヴァンパイア、行けるな!」
二つの刃がクロスする。
激しい、戦いが始まった…
まずは初撃、とヴァンパイアの男は剣を突き出す。
しかしキャンサーの男はそれを籠手で受け流しつつ、カウンターで左のストレートを打ち込んだ。
その一撃を避けきれないながらも、今度はヴァンパイアが宙を舞い、強烈な斬撃をかました。
「ほう…」
キャンサーに僅かに焦りが見える。
しかしキャンサーは慌てず、鋏を振るった。
そして距離を取りつつ、こう言い放った。
「すまないが、お互いに早く決めたいだろう?必殺技を打ち合って決めようじゃないか。」
「成る程、たしかにそれの方がいいかもしれないな!」
ヴァンパイアは剣を構えると飛び上がり、必殺技の名前を宣言した。
「必殺!飛翔斬り…!」
ドリルのように回転しながら放たれた、斬撃とも刺突ともつかない、しかし明らかに必殺の威力を込められた蹴り。
しかし、それを見て笑ったのはキャンサーだった。
「かかったな…回避だァ!」
ヴァンパイアの表情に驚愕が混じる。
思い切り避けたキャンサーを前に、ヴァンパイアは勢い良く地面にぶつかってしまい………思い切り、地に伏した。
「…ハァ、勝負、あった…な、ァ…」
戦いは互角、むしろヴァンパイアの方が若干優勢、という程度だった。
キャンサーの硬い防御と、ヴァンパイアの飛翔能力。
それぞれ特性をよく生かしていた。
しかし、キャンサーが突然提案した、必殺技の打ち合い…
これに乗ってしまったのが、ヴァンパイアの運の尽きと言えた。
「テメェ、卑怯だぞ…」
「卑怯?ラッキョウなら大好物なんだがなァ?」
キャンサーはふざけたジョークと共に、彼に忍び寄る。
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