猫、艶美にてあじゃらしくは笑窪

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 魅惑的な踊り子というものは、それだけで存在が罪であるとジルは大真面目に考えていた。現に今いる砂漠都市の場末酒場の一角にでさえ、人々の目を奪う踊り子というものは存在しているのだ。精通もまだの幼子でさえ興奮を覚えそうな色香を振りまいておきながら、しかし決して下品に落ちることはないそれは、ある種犯罪的とも言える。なのに手を出せば砂漠の塵の一つにされかねないとは、どうしてこうも世は無情が蔓延っているのか。流行している病とて、もう少し慈しみだとかお情けを感じさせるというのに、この酒精支配する世界には慈しみもお情けもない。ただ有るのは男女の痴話喧嘩と決して終着駅に辿り着くことのない色恋沙汰のゴタゴタだけである。それなのに人間の敵たる魔物の方が人外たる魅力を兼ね備えているのはなぜなのか。まるで食われてしまえよ人類と神が声高々と告げているようなもの。
 一度戦場というものをジルも、偶然目にする機会に恵まれた。しかしそこで見たのは酸鼻極める惨たらしい殺戮遊戯でも、血を血で洗う鉄製の武具と硝煙の臭い漂う武闘でもない。それは喩えるなら宴という言葉が似つかわしく、必死に抵抗する人間が哀れ男は性的に貪られ、女は魔物へと堕落させられる様は淫靡を極めていた。教会の神父がもしその光景を目にしたなら、神は死んだのかと嘆き言一つを遺言として精神が耐え切れずにそのまま神の遣わす使者になってしまっていただろう事はジルにも察しがつく。
 ジルもその光景を恐ろしくは感じたのだが、同時に羨ましくも思うのは本人の下半身でものを考える性の成せるもので、死ぬのは御免だが一度くらいあそこまで徹底的に、それこそ精巣から子種をもう吐き出せなくなるくらいに搾り取られてみたいと考えるのは度胸が据わっていると褒めるべきか、助平根性丸出しの阿呆と罵るべきか。
 まあそんなわかりやすい下半身男にそうそう幸運の女神は微笑むはずはなく、寧ろ彼岸の彼方まで飛んで行けと平手打ちを喰らう次第で、その結果がこうして今酒場で呑んだくれているジルの様を見るのは実にわかりやすい。
 簡潔に言えば単に魔物と一戦交わる機会を見つけられなかった鬱憤を、こうして踊り子に責任転嫁することで晴らしているのだから、この男中々屑の素質があると見えた。なにせおさまりつかぬジレンマにかこつけて道に我が物顔で寝転がる猫に蹴りを浴びせる、愛猫家からすれば批難殺到間違いなしの所業すらつい先程致したところである。
 尤も踊り子に手を出したいと思うのは男ならば致し方ない願望であり、浪漫ではあるがその欲望剥き出しにした挙句の果ては言わずもがな悲惨であるからして、ただでさえ歯痒い想いをさらに増長させることこの上ない。
 踊り子はかわるがわる、各々の魅力と色香を周りの野郎どもに見せつけると、それに釣られた蛾のような男共はたまらず手を出したくなるのを酒精でぐっと我慢する。そうして酒場は男の涙と欲棒混じった銭で暖まる。この一連が資源も乏しい砂漠の酒場の息が長い仕組みであり、それは野郎どもも頭では理解していた。しかし足は酒場へと通ってしまうのは呑兵衛の、いや男の悲しい性である。娯楽が極端に少ないと、人間は一度見つけた快楽は是が非でも楽しもうとするか、あわよくば棚から牡丹餅の幸福に肖ろうとする。
 前者は兎も角、後者に至っては落ちてきた牡丹餅がまるで意思を持っているかの如く落下中に身を翻し、口に収まるのを善しとしないが。
 そこまで思い通りにいかないならば、ある程度の妥協も仕方ないと考えるのも矢張り男の悲しい性である。ジルもその中の一人であり、酒場にいるその手の仕事をしている女を適当に声かけて、千夜物語の浪漫には届かずともそれはそれで趣のある退廃に身を浸そうと考えていた。店内に視線を泳がせれば、インモラルな服に身を包んだ、間違いなく娼婦と思える女がちらほらと。金が無ければ誘われても忌まわしいと感じるばかりだが、今のジルには懐に十二分に蓄えがあり、その忌まわしさを感じる時ではなかった。逆に早くもこれから一戦交えることになる女を品定めする、下品さを隠しきれない視線で物色する様は好色親爺かそれとも素封家の享楽のか。
 が、いくら鵜の目鷹の目で好みの女を探せども、直感的に神経に走るものがあった女に限って他の男の隣に腰かけ、悩ましい身体つきで男どもの下半身に揺さぶりをかけている真っ最中であり、ジルは宝箱の中身が悉く盗人に横取りされている気分に陥った。そんなことで理不尽な情火の昂ぶりが収まる道理はなく、しつこく視線をあっちへうろうろ、こっちへうろうろさせている内に、ふと目に留まる姿があった。
 歳はジルと大して変わらないように見える。しかしその身体は胸はその存在を遺憾なく自己主張し、腰から尻にかけての曲線は男の股ぐらを掠め取るにはオーバーすぎる美しさと艶やか
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