「ん?なんだこの本?」
親魔物国家ウツロギの書庫番をしていた少年はふと疑問の声をあげた。それも当然で、いつもなら閉まっているはずの書庫の扉が開いていたのだ。まさか自分が鍵をかけ忘れたのか。なら大変だ。司書のジョロウグモに何を言われるかわかったものではない。そんな焦りに駆られ、慌てて書庫の扉を閉めようとした時だった。
少年、シタールは書庫で一冊の本を見つけた。
「眠る楽曲大全・・・?なんだこれ?」
書庫の番をしているからには、シタールは書庫にある本はだいたいは把握している。どこの辺りにどんな本があるかとか、自分の興味がある本ならぴったりと何列何番目まで具体的に。だが、そんな少年の記憶に、今見つけた本はなかった。
怖いもの見たさの好奇心に負け、少年はその本を手に取り、開く。
■ ■ ■
本書は残念ながら、魔物娘らしい退廃的な過ごし方や、愛するべき旦那様とさらに淫楽に満ちた生活を送るための指南書ではない。それを期待して手にとってしまったとすれば、著者としては深くお詫びするばかりである。
だが、少し考えて欲しい。魔物は魔王が交代してから、麗しい姿を持ち、知性を持ち合わせるようになった。その知性は単に人間と理解し合うだけでなく、芸術に興味を寄せるまでに及んでいる。王魔界には美術館もあるくらいだ。絵画、彫刻とどれも魔物娘らしい淫靡で退廃的なものだが、それでも芸術を嗜むという点で、確実に進化を遂げたのだ。
ならば、その嗜みの中に、音楽が入っていても不思議ではないだろう。
本書は、音楽を嗜む魔物娘たちの曲を記させて頂いたものである。彼女達は彼女達なりの考えで作曲し、想いを持ち、それを楽譜に形にしていた。
と聞くと、楽譜表かと思われてしまいそうだが、そんなことはない。あくまで本書は、読んでいる読者の興味を惹くためのものなのだ。
なので、楽譜ではなく、曲名と作者、そして一言のコメントを寄せてもらうだけのかなり異質なものとなっている。
だが、私はそれでいいと思う。彼女達のコメントを呼んでもらって、少しでも読者諸君が興味を抱いてくれれば、もう本書は役割を果たしたと言えるのだから。
さて、前置きが長くなってしまったが、それでは次々と紹介させていただくとしよう。
曲名:蜜蜂の飛行
作者:アルパ『ハニービー』
コメント:この曲は弾いてるととっても楽しくなる楽曲なんだよ!おすすめは森の中で色んなお友達と弾くこと!そうすれば自然と私たちが集まってきて巣までお持ち帰りしちゃうからね♪あ、でもたまに紛れ込んでる目つきの悪い蜂さんには注意してね!絶対についていっちゃだめだよ!
曲名:手を伸ばせと呼ぶ声が聞こえ
作者:テノール『サハギン』
コメント:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好き。
(彼女のために一応追記しておくが、これでも三時間粘ってやっと発してくれた言葉である。決して手抜きではない)
曲名:欠片割人形
作者:アルル『リビングドール』
コメント:おままごとで遊んでいるような軽やかな曲にしてみましたの。誰だって心の中には少女趣味が隠れているものですわ。これはそんな心の中を曝け出してくれるような素敵な曲になってますの。これを聞けばどんな女性でも殿方でもあら不思議。懐かしかった子供のころの無垢な気持ちになって気持ちよくしっぽりと交われることができますわ。私も旦那様との交わりの時にはこっそりとかけるようにしていますの。そのときの旦那様の可愛さといったらもう(以下三十行ほど続くので省略)
曲名:小さな欲紡ぎ娘
作者:シルタ『バフォメット』
コメント:ふっふっふ。この曲を男の前で流せばやっと念願のお兄ちゃんが――っておいなぜコメントを消そうとしておる。おいちょっと待てまだ話は少ししか、おい、おい、待って!待ってお願いじゃか――
曲名:雷鳥の湖
作者:ムート『サンダーバード』
コメント:あ〜これ曲っつうかどっちかってえとアタシが歌うためだけに作ったんだけどなあ。まあいっか。あ、そうだこの本読んでるやつもし暇ならアタシと一緒に刺激に溢れた日々を過ごさねえか?なぁに損はさせねえ。音楽も気持ちいいこともちゃんと充実させた日々を送らせてやっからよぉ。そんじゃそこんところ頼んだぜ!え?メンバー募集みてえな目的じゃあねえの?・・・いいだろう、表出ろ。
曲名:超絶技巧練習曲『篝火』
作者:ユノ『マンティコア』
コメント:ん?この曲弾けるかだって?いや弾けるわけねえだろこんなもん。そんな曲に馬鹿正直に挑戦する奴を笑うために作ったに決まってんだろ?指腱鞘炎になりかけるくらいになって、挫けそうになったところにアタシが優しく声をか
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想