「別に私は怒ってなんていないんですよ?あなたが私以外の女性にちょっかいを出されようと、私はそれを仏のような微笑で見過ごしてあげる自信は持ち合わせています。まあそれもどれもこれもあなたへの愛故に成せることですけれど、ですがしかしあなたの方からそれを崩してしまうようなことをされると私の心模様も少し雲ってしまうと言うものです。ちょっかいを出されるだけなら見過ごしてあげられますが、それに愛想よく微笑み返すなんて流石の私でも少しは傷つきます。これはきっと私が白蛇だからなんて種族的な問題じゃなく、旦那様を愛する魔物娘なら誰でも感じることですよ?なのにあなたときたら暫く談笑までするなんて、もう私の嫉妬心を煽っているとしか思えません。いえ、あなたのことですからきっと悪気が無かったのはわかっています。あなたのその誰にでも等しく接しようとする優しさに私は心を射抜かれてこうして結婚したのですから。ですが、結婚したなら結婚したで、嫁である私に少しばかり愛情を深く注いでくださってもいいのではないのですか?ああ、誤解されないでくださいね、私が欲しいのは愛想よくされることではなくて、愛情なんです。無論、愛想よくされて嬉しいのは嬉しいですけど、やはり妻の私としては同じ愛の字が入っているとしても、欲しいのは愛情の方なんですよ。なのにあなたときたらお惣菜屋さんの人と楽しそうに話しているんですから、帰りが遅いと思って心配して正解でした。確かにご近所付き合いもよくしないとダメなことは重々承知していますが、それにしたって話し込むことなんてないはずです。あなたと話し込むのは私だけで十分なはずでしょう?私とあなたの出会いから、思い出なんて星の数ほど作ってきたじゃありませんか。幾星霜待ち焦がれていた私と、あなたの運命的な出会いから無事結ばれるまでそれこそ一度語ってしまえば自伝小説にできるほどの愛の深さだと、私は自負しています。もしあなたがそこまでの愛ではなかったとしてもそれはこれから深めていけばいい話ですし、そこに私は異論なんて挟むつもりは毛ほどもないですけれど、流石に私以外の女性と仲良くしている姿を見てしまうと、そこには介入せざるを得ません。一応、誤解しないでほしいんですが、あなたを責めているわけではないんですよ?ただ、せめてもう少し早く家に帰ってきて、愛する妻を抱きしめてあげるとか、ご飯を食べた後の夫婦の営みを少しでも多くするとか、そういう気遣いはしてくれてもいいんじゃないでしょうか?まさかあなたのことですから、他の女性に夢中になってしまってそういうことに気が回らなかったなんてことではないと信じていますけど。私たちの間にはまだ子供もできていないんですから、そのためにもあなたには精のつくものを食べて頂いて、たっぷり私を愛するのが一番のお仕事なんですから、それをゆめゆめ忘れないでくださいね?聞いていますか?あなた」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
よく見かけるような夫婦のちょっとしたいざこざの一ページのつもりで私は彼に私の考えを述べているのですが、どうしてか、彼はやや青ざめた顔で私の話を聞いています。どうしてそこまで顔色を悪くするのか、私にはわかりません。ひょっとして、体調が悪いのに無理して買い物に行ってくれていたんでしょうか。ああ、それなら私はなんて罪深い勘違いをしていたのでしょう。
妻というものは夫を支える立場にあらなければならないと言うのに、私もまだまだ修行が足りませんね。
「もう謝らなくていいんですよ、顔を上げてくださいな」
そう言っても彼は顔を上げてくれません。私と顔を合わせることすら申し訳ないと思っているんでしょうか?それとも私の目が邪気でも孕んでるんでしょうか?手持ちの鏡で自分の顔を見てみましたが、いつもと変わらない自分がそこにいるだけでした。
まったく、男性というのは不思議ですね。不思議の対象は、あなただけですけど。
「もう、いい加減顔を上げてくださいな。そうでないと、本当に拗ねてしまいます」
「わ、わかった、すまん・・・!」
そう言いながら彼は恐る恐る顔を上げてくれました。でもなぜか私と視線を合わせてくれません。ひょっとして、やっぱり体調が悪かったのでしょうか?
「あなた、大丈夫ですか?お体の具合でも悪いのですか?」
「い、いや体は至って健康体だよ。たださ・・・」
「ただ?ただなんです?私はあなたの妻なんですから、言いたいことがあれば是非申してくださいね。お互いが支えあってこそ夫婦なんですから、遠慮なんていらないんですよ。ああ、でもいきなり悪口を言われるとちょっぴり戸惑って困ってしまいますけど、他の誰でもないあなたに言われた言葉なら私はしっかりとその言葉を受け止める覚悟ができていますから、どうぞ何なりと言ってくださいね
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