ふかい、深い森の中。一人の少年が途方に暮れながら歩いていた。
鬱蒼とした木々の枝葉や梢に遮られ視界は悪い。薄暗い足元を注意深く観察しながら歩かねば、木の根に足を取られて転んでしまうだろう。
「……はぁ、やっちゃった。まさか、この森で迷子になるなんて」
少年はため息を吐く。彼はこの森の出口を探して彷徨っていた。
少年はこの森の近くの村に住んでいる。
両親は亡く、一人で木こりや大工の手伝いをして暮らしていた。
今日も日銭を稼ぐため、材木を切り出しに森へ入ったのだが、いつの間にか道を見失い、随分と深いところまで足を踏み入れてしまったようだ。
帰り道はわからず、方向感覚もままならい。こうしていればそのうち日が暮れる。そうなると獣や魔物に襲われてしまうかも知れない。
「はやく、早くここから出ないと」
焦る気持ちが少年の歩みを速めた。
しかし出口は見えてこず、森は深くなる一方だ。
「はぁ、はぁ……! くそっ」
早足に息を荒げ、深く空気を吸う。
すると、少年の鼻に甘い匂いが広がった。
「……なんだろう? 花の匂い、かな?」
足を止め再び呼吸をする。と、匂いはまた少年の鼻腔に広がった。
甘い、蜜のような。それでいて芳しい花のような。気を惹かれるいい匂いだ。
ずっと嗅いでいたい。ついそう思ってしまう。
「……って、匂いを嗅いでる場合じゃないだろ。早く帰らないと……」
そんな自分の頭を振って、少年はまた歩き出した。誘惑から逃げるように足を動かし森を進む。けれど……。
(あれ? なんで、僕。こっちに向かって歩いてるんだ……?)
少年の足は匂いに向かって歩き出していた。
なんだか頭がぼんやりとして、上手く動かない。がさがさと草をかき分ける音が聞こえてくるが、それを止めることはできない。
匂いに手繰られるように、ただソコへ向かって進み続ける。
「……ここ、は?」
少年の視界が開け、明るい景色が見えてきた。木立の無い広場のような場所へたどり着いたようだ。
森の木々はソレを避けるように生え、開けた空から光が指して、草の葉をきらきら照らしている。
その光の中心に白い花が咲いていた。
美しい花弁の中心には二人の少女が、互いの肢体を絡ませ、睦み合っている。
なんとも刺激的で、魅力的な光景だった。
「ひと、おんなこ……? いや、ちがう。アレは……」
匂いは一層強くなっていた。頭の芯まで甘い匂いが染み込んで、離れそうに無い。
意識が蕩けていく。一糸纏わぬ、生まれたままの姿の二人の少女の情愛に、目が釘付けになってしまう。
少年はふらふらと歩き出した。
視線を向ける一対の美しい花達へ向かって、少年はその手を伸ばしていた。
「──んっ、んぅぅ。……あれ? お客さん? しかもニンゲンの男の子だよ、リリィお姉ちゃん」
「……じゃあ、おもてなしをしなきゃだね。キミ、こっちにきて」
少年の手を少女達の二つの小さな手のひらが握った。
柔らかく、すべすべと密着してくる薄緑色の肌。美しい顔と蠱惑的な肉体ではあるが、その様相と雰囲気は人間のものでは無い。
「……ま、もの?」
痺れて動かない脳味噌から少年は無理やり言葉を搾り出した。
人間を喰らう捕食者の名前を紡いだ彼の唇が震える。
「そんな可愛くない名前で呼ばないで! 私達にはちゃんと名前があるもの。私はララ!」
「わたしはリリィ。きみの名前も聞かせて?」
ララとリリィ。そう名乗った少女達は少年の身体をゆっくりと撫で回し始めた。
小さな冷たい手のひらが、少年の服の下に入り肌に直接触れる。ぺたりぺたりと蛇が這うように、彼の胸板を動き回る。
その刺激に少年は抗うことができず、少女たちが求めるまま名前を呟いた。
「ぼ、くは。セオ……」
「へぇ、セオ。あなた、セオっていうのね。ふふっ、素敵な名前!」
「セオ。……うん、きにいった。これからよろしくね、セオ」
肩口で綺麗に揃えられたショートカットの少女、ララが快活に笑い、腰まで伸びる美しいロングヘアのリリィが優しく微笑む。
双子のように鏡写しのよく似た顔立ちの美しい少女達は、少年──セオの耳に顔を近づけ囁いた。
「ねえ、セオ。私たち、もっとあなたと仲良くなりたいの。もっともっと、ぎゅうってくっつきたいの」
「だからね、セオ。お洋服、脱いで。裸でくっつこう? そうしたらいっぱい、気持ちよくなれるよ?」
甘美な声が、匂いがセオの脳髄を溶けさせる。二人の紫の瞳から視線が逸らせない。腕が、身体が、彼女達の言葉の通りに脱衣を始める。
「わあっ。見て、リリィお姉ちゃん。男の子の裸よ! すごい、すごいよ!」
「うん、すごいね。わたしたちより大きくて、硬そうで。とっ
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