亡霊と戯れなば…

某月某日。
解雇を言い渡された。
理由は…よくわからん。
しかし。新たな問題が浮上した。
社員寮も追い出されてしまった。
退社まで残された日数はおよそ2週間。
それまでに荷物をまとめて部屋を探さなければならない。
しかも同時進行で職も探さ無ければならない上に金も心もとない。

三十路目前にして最悪の状況。
九割程ふて腐れ、その週の休みに大手不動産屋に足を向けた。

「…その条件に合うお部屋ですと、この3物件ですね。」
どれもこちらの予算ギリギリの所を出してくる。
もう少し低めの予算提示しときゃよかったか…
「バイクがあると、どうしても絞られてしまうんですよ」
申し訳ありませんと店員は告げる。
時間も残り少ないしこの3軒を廻って見ることにしよう。

一軒目。
築50年和室10畳一階。
…いかにもなんか出そう。
アレ?押入れに短冊?
うん。即答で次。

二軒目。
築10年洋室12畳二階。
大家さんがちょっとコワモテ。
車がほぼ黒塗り。
アレ?助手席の窓がスモーク?
即却下。

三件目。ラスト。
築15年フローリング15畳二階階段脇。
三階建てだが上に部屋なし。
即決。

不動産屋さんから引っ越し祝いです、と何の木か判らない鉢植えを貰った。特に水遣りは必要ないらしい。

それから河一つ越えた実家と社員寮を夜中に何度か往復し必要書類を集め、引越しは同僚に手伝って貰える様に頼めた。
が。
10日ほど有給の消化も含め、引越し準備に当てる予定だったのに会社から引継ぎを言い渡され有給は泣き寝入り。結局、引越しの準備は当日と、寮長に頼み込んで翌日の計2日間で行うことになった。

さて。引越し当日。
…全員ボイコットしましたが。何か?

「フラれた……かな?」
引越しの準備をする俺。トラックを借りに二駅先まで行き、戻ってから不用品の買取を頼みに連絡する。電気、水道、電話は前日のうちに停めたから問題ナシ。

昼メシの塩から揚げ弁当がしょっぱいのは。当然か。『塩』から揚げだもんな。
ダンボールを会社のゴミ捨て場から持ってきて、箱詰めしていく。
そうこうしている内に鍵を取りに行く時間になり、トラックにある程度の荷物を積み新居に向かう。家具らしい家具はないし、一人暮らしで使うような冷蔵庫くらいなら一人で何とかなるし、仕事でも何回も一人でやってたし問題なかった。…って言ってて目がかゆくなってきたよ?

翌日に3分の2の荷物を残し初日は終了。徹夜して寮の片づけを終え翌日の昼にはなんとか片付け終わった。



そんなこんなで『一人暮らし』が始まった。

ブラックな会社を去り早5ヶ月。俺は不眠症に悩まされていた。越してから寝れなかったのは今までと環境が変わったせいだと思っていた。今まで身体を動かしていたから、無駄に体力がつきすぎていて、日雇い程度の労働では疲れが溜まらなかったのだ。

が。そこはニンゲン。5ヶ月も過ぎれば寝れるようになる…はずだった。
はずだった。
はずだったのに。

どーしてこーなった?




「やほ〜
hearts;」
またか。またお前なのか?
「やほ〜
hearts;ぢゃねぇッ!!」
「じゃあ、やは〜!」
この娘は…
「やは〜!でもねぇ!!」
「じゃ〜…どーしろと?」
そんな泣きそうな顔してもダメッ!!
「寄るな!来るな!!出てくるな!!」
「そぉんなぁ!!ひっどぉい!」
と。最近毎晩の様にやって来る彼女。
彼女はニンゲンじゃない。
彼女越しに外の風景が見える人間なんてのがいるなら教えて欲しい。

本人曰く、ゴーストだそうだ。享年29。俺も詳しく聴く気もないが、何がしかの事件に巻き込まれてしまったらしい。「アタシってば、薄幸の美女
hearts;」
「死んでも前向きなヤツ。」「てへッ
hearts;」
ホントはピクシーになりたかったそうだが、んな事俺は知らん!
ゴースト。幽霊。

いや。越してきてから近所を散歩してたらさ、やたらと神社と寺が多い(神社3社に寺1堂霊園付)事に後から気づいたんだけどさ。何この町内。怖い。

閑話休題。
そんな彼女―ショーコ―は今晩も乱入してきやがった。
晩メシ(近所の弁当屋で450円/唐揚げ弁当)を平らげて、食後の一服を愉しみ、日課の素振りに手をつけようとしていた所だった。

「ホレ。飲むか?」
と『超さわやか飲料・桃』と書かれた1L紙パックのジュースをタンブラーに注いでやる。
もちろん俺の分も。
「や〜ん
hearts;ヤっちゃんのそ〜ゆ〜とこに惚れ……」
「ダマレ。ヤっちゃん言うな。」
そ、そうよ!コレは気まぐれ、きまぐれなんだからッ!と最近覚えたツンデレなんてのを頭の中でやってみる。

ジュースを一口で飲み干し、戯言を言うショーコを無視して木刀を手に取る。とある武神を祭る神社の御神木から削られたものだそ
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