化物大蛇は意地悪く

(寂しいなぁ…………)

……誰の声?
あまりにも静かすぎて、起きているのか眠っているのかをまず疑った。
ぬくぬくと暖かくて、自分の体がどこにあるのかを疑うほどふわふわしている。

(早く起きないかなぁ……、気持ちよさそうに寝ちゃって)

あぁ、これ、アイリの声か。
本当に、いつ聞いても普通の女の子みたいだなぁ、こうして聞くと。
というか、寂しいならこんな薄暗い洞窟になんか引っ込まずに、外に出ればいいのに……。

(……さ、寒かったりしないかしら? 毛布一枚で、こんな縮こまっちゃってるけど……)

つん、と。背中を指で突かれた。
別に、寒くはない。ぬくぬくと暖かくて、また眠ってしまいそうなほどだし。

(…………あったかそう)

むぎゅう。
毛布の上から腕が回され、抱きしめられているのが分かった。
柔らかい感触に、更に眠気が加速する。
このまま眠ったら、きっといい夢が見れると思う。

ズキ

「いったぁぁああ!?」

あ、アイリの手が、的確に、傷に当たって……!!
塩でも擦りこまれてるみたいに痛い……!!

「わっ、ご、ごめん!」

慌ててアイリがパッと離れる。
ヒリヒリと痛む全身がアイリに文句を言えと訴えるが、まさかそんなわけにもいかない。
わざわざ勝手に負った傷を治療してくれて、付きっきりで看病をしてくれたのだ。

「い、いいよ別にぃ……!」

歯を食いしばって痛みを堪え、精一杯アイリに笑って見せる。
だが、どうやらそう上手くは笑えていなかったらしい。

「ほ、ホントごめん……」
(うぅ……やっちゃったぁ……)
「だ、大丈夫……! このくらいなら、まだ痛くないし……!」

泣けることに、つい先日にもっと痛いことはあったし、それ以前にも痛いことはあった。
むしろ、アイリが薬を塗ってくれたおかげで幾分かマシなくらいだ。
良薬は口に苦し、みたいなものか、よく沁みた。そっちのが、痛かったです。

「……はぁ、おはよ、テルミ」

ため息交じりに挨拶をするアイリに、おはようと簡単に返す。
もう、アイリの洞窟で目が覚めるのにも慣れた。

「ねぇアイリ、もう大丈夫だから帰っちゃ……」
「な、何言ってんのよ! さっきあんなに悲鳴あげてたじゃない! ま、まだ治ってないもん!」

と、家に帰してくれないからだ。
何でも、完治させずに帰らせるのはアイリの沽券に関わるらしい。
もう生活には支障がないのに、アイリに世話になるのはこっちも心苦しいのだが……。

「そ、そんなに早く帰りたいの……?」
(……別に、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないの)
「い、嫌がってるわけじゃない! ただ、アイリに迷惑じゃないかって……!」

そういう風に拗ねられると、こっちも弱る。
おかげで、帰るに帰れない。

「……そ、そんなこと気にしなくていいのよ! こっちも、す、好きでやってんだから……!」

まぁ……、実際アイリの言う通り気にしなくていいのだろう。
それに、個人的にアイリの傍にいるのは居心地がいいし、悪くはない。
ただ、ちょっと引け目を感じるだけだ。ただの友達の僕が、こんなに甘えてていいのかと。

「それより……、はいお粥。今日のは自信あるわよ」
(なんたってホルスタウロスミルクを使ったミルク粥なんだからね!)
「…………へ? ミルク粥?」

お粥ってそんなのあるの……?
というか、またさらっと魔物っぽい名前でなかった?

「あら? ミルク粥、知らないの? だったら食べてみなさいよ、ぜったい美味しいから」

そう言って、木製の匙で蕩けた白米を掬う。
ほんのりとミルクの甘い香りが漂い、ごくりと喉が鳴った。
ゆらゆらと湯気が立ちのぼり、アイリはにこにこと笑顔で匙を突きだす。

「はい、口開けなさーい♪」
(これなら絶対に美味しいって言ってくれるよね〜♪)

何が嬉しいのか分からないが、アイリの声も弾んでいる。
アルラウネの蜜も甘くて美味しかったし、きっとこれも美味しいだろう。
……い、いただきます。

「あむ……」
「どう? どう? 美味しいでしょ?」
「……うん、すっごい美味い」

よっしゃー! とアイリがガッツポーズを取って歓声をあげる。
しかし成る程。これはアイリが自信たっぷりに出すのも分かる。
まろやかでコクがあり、優しい味の裏にほのかな甘みがある。
これは、絶対に野草なんかでは味わえないだろう。

「ふふん、もっとあるから存分に食べなさい!」
(頑張った甲斐があったってもんね♪)

ご機嫌にそう言い、アイリはさっきと同じように匙を突きだした。
……アイリ、たぶん気付いてないんだろうなぁ。
これ、あーんだよ?

☆ ★ ☆ ★ ☆

「はぁ、ご馳走さま、美味しかったぁ……」

アルラウネの蜜っていうのも甘くて美味しかったなぁ……。
魔物ってすごいなぁ。秋に採
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