化物同志は未来へと

「着いたわ。ここがアタシの町よ」

そんなアイリの声に、緩やかに目が覚める。
どうやら、眠っていたらしい。
寝惚け眼を擦ってアイリの背中から身を乗り出すと、そこには未知の世界が広がっていた。

「…………わぁ」

まだ魔物へのレッテルが拭いきれてなかったようだ。
最初は、いったいどんな人外魔境が広がっているのかと期待したが、いい意味で裏切られた。
レンガで造られた道沿いに、立派な建物が幾つも並んでいる。
閑散としていた村とは比べるべくもなく、紛うことなき都市部だ。

(カワイイ子だなぁ、お手付きっぽくないし……じゅるり)
(結婚したい)(結婚しよう)
(……あの人、すげぇ胸大きかったな)
(今晩はタケリダケにネバリタケで……うふふふふ
#9829;)

そして、人の賑わいもかなりのものだ。
心の声も久しぶりに騒がしく聞こえる。
もっとも、何かよろしくないっぽい感じの声ばっかりだが……。

「なんか……いい所」

でも、何の不快感も感じない。
罵倒も聞こえず、むしろ誰かに憧れ、惹かれ、思いやるような、そんな声ばかりだ。

「気に入ってくれて何よりだわ」
(やっぱり、連れてきて正解だったようね)

ふふん、と胸を張るアイリに、ありがとうと素直に返す。
どうやらここに連れてきてくれたのも、ただ遊びたいだけじゃなくて、気を回してくれたらしい。

「それより、アンタ疲れてない? さっきも寝てたっぽいけど」
「んー……大丈夫。アイリこそ疲れてない? ずっと僕おぶってるけど」
「むしろアンタがいる分、この通り元気いっぱいよ」

そう言って二ッと笑いかけるアイリ。
なんとまぁ頼もしい。こっちが情けないと思うくらいに。

「ま、でも今日はさっさとウチに行きましょ。明日に町案内したげるからさ♪」
(はやくパパとママに紹介したいしね……
#9829;)
「…………?」

だから、何故そうも両親に僕を紹介したいのか。
それも僕への計らいで、家族というものを知って欲しいのだろうか……?
にしては、思いやりというよりも私欲っぽい印象だけど。

「で、ここがウチの家」

と、アイリがお披露目でもするかのようにスッと手を出す。
その先には、レンガ造りの立派な二階建て一軒家。

「洞窟じゃないの!?」
「当たり前でしょ!?」

びっくりだ。
てっきり町はずれの洞窟が実家だと思っていた。
アンタはアタシを何だと思ってるのよ……、とぶうたれるが、元の住処が住処だから仕方ない。

「洞窟にいたのは薬草が採りやすいから! それに反魔物領だから隠れる必要があったの!」
「う、うん……。そうだね」

思いっきり噂されてたけど。
森の奥には魔物が潜んでいるなんてジパング伝承のナマハゲみたいな扱いされてたけど。
が、それを指摘するとイジメられそうなので言えない。

「ったく、バカなこと言ってないでさっさと上がりましょ。少し冷えるわ」

そう言って、アイリがむくれながらドアノブに手をかけたときだった。

ガチャ

「へぶっ!?」

唐突に開いたドアが、アイリの顔面の直撃する。
鼻先を押さえてうずくまり、目に見えて痛そうだった。

「ん?」
(何かぶつかった?)

と、怪訝な声がドアの向こうから響く。
まるで昔のアイリみたいなぶっきらぼうな心の声に、思わず顔を上げる。
タイミングよく、少しだけ開いたドアの隙間から頭が出てくる。
アイリと同じように、毛先が蛇になっている、綺麗な顔。
鋭く吊り上がった金色の目と、バッチリ目が合う。

「おろ?」
(子供?)

間の抜けた声と共に、やや眉が下がる。
どこか険しい目つきがそれだけで柔らかい雰囲気になり、自然と安堵する。

「診察だったら表からよ坊や。それとも、私に何か用?」
(子供一人でウチに用なんて……珍しいわね)
「え、えぇと……」

たぶん……アイリのお姉さん? かなり若いし……。
こういう時、何を言えばいいのか思い浮かばない。
人付き合いの少なさがここに祟るか。

「ぼ、僕はテルミット・ラプアスです……。アイリのお姉さん……ですか?」
「おねえさ……ッ!?」

ぶほっと盛大にむせ、アイリのお姉さんと思しき人はゲホゲホと咳き込む。
何かやらかした!? と吃驚したがそうではないと思考が物語っている。

「……ゴホン、私はアイツの母ちゃんよ。何、あのバカ娘の知り合い?」
(あー吃驚した……。つーか、アイリちゃんこんな知り合いなんかいたっけ?)

ば、バカ娘……アイリちゃん……? というか、お母さん若すぎない……!?

「……誰がバカ娘よ、ったく」

と、そこでようやくアイリが鼻を押さえながらむくりと起き上る。
その姿に、アイリのお母さんがやや驚く気配が伝わった。
が、すぐにそれは喜びに変わった。

「おろ? アンタもしかして……、この私
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