化物同士と猛る英雄

「うぅぅ……、アンタ何でそんな薄着で平気なのよ……」

冬。
雪が積もり始める季節になって初めて知ったが、アイリは冬が苦手らしい。
割りあい涼しかった秋を半裸で過ごしたというのに彼女はいま、風もそう吹き込まない洞窟の奥で少し多めに火を焚いて、おまけに何重にも毛布を引っ被っていた。
かくいう僕は、長袖にローブ一丁である。

「アイリが着すぎなだけ……。それに、僕は寒いの慣れてるし」
「くっ……、子供は風の子っていうことね……」
(テルミ……なんて恐ろしい子……!)

だが、アイリが寒いというのも分かる。
今冬は例年と比べて降雪量も多く、普通の靴だったら足がとられそうなほど雪が積もっている。
それに、如何に魔物といっても蛇の体を持つアイリだ。
そりゃ寒いのが苦手なのも仕方ない。頭の蛇たちも、身を擦りあわせて凍えている。

「大丈夫?」

アイリの髪、つまるところ小さな蛇に手を伸ばすとシューシューと鳴きながらすり寄ってくる。
最初に会った頃はそれこそ度胆を抜かされたが、慣れるとこの子蛇もかわいい。
ひやりとした鱗が指をくすぐり、少しだけこそばゆい。

「うりうり」

手にするすると絡みつく蛇を撫でると、気持ちよさそうにつぶらな目を細める。
どうやら、手から伝わる体温が心地いいらしい。

「ちょ、な、何すんのよ!」
(あ、アンタ達ばっかずっこいのよ!)

が、アイリは急にズザッとのけ反り、頬を朱に染める。
心の声の言う『アンタ達』というのは、いったい何を指しているのだろうか?
それよりも、頭の蛇たちですらあんなに冷たかったのに、アイリは大丈夫だろうか?

「アイリアイリ、ちょっと握手しよ」
「へっ? な、何でよ!?」
「ちょっと友情を確かめたい」

適当な言い訳に怪訝に眉をひそめるが、アイリは素直に手を差しだす。
それを握ると、頭の蛇たちほどではないがかなり冷えていた。
思わず身震いしてしまった程だ。

「わ、アンタぬくいわねぇ……」

と、手が彼女の大きな両手に包まれる。
こっちとしては、あまりの冷たさが逆に気持ちいいくらいだ。

「アイリは冷たすぎ。ちゃんとメシたべた?」
「あー……、そういや今日は食べてないわね。ご飯取りにいくのもおっかなくて……」
「そりゃ体温が上がらないわけだ……」

食べなきゃ温まらないのは、自活をすれば自明だろうに……。
冬になってから食料を採ってないため、今日は残念ながら大したものは持ってない。
臨時のために刻んだショウガを持ってはいるが……。

「んー……、アイリ、ちょっと蜜もらっていい?」
「……? な、なに? 別にいいけど、何かするの……?」
「うん。あったかくなるおまじないみたいな」

おまじない、なんてことはない。
単に、ちょっとショウガ湯でも作って温まろうかと思っただけだ。
だが、アイリはまったく別の方向に受け取ったらしい。

「温かくなるおまじないって…………、アンタ何する気よ!?」
(は、は、裸で温めあうって言うアレ!? アルラウネの蜜を全身に塗って!?)
「ちょ……っ!?」

その発想はなかった!!
というか、何で全身に蜜を塗るの!? ちょっとドン引きだよアイリ!?

「しょ、ショウガ湯だしショウガ湯! 何でそうなるし!!」

ややムキになって反論する。エッチなのはいけません。
珍しく勢いのある言葉に気圧されたのか、アイリはやや慄いた様子だ。
そして、ようやく心を読まれていることを思い出したのか、顔が一瞬で真っ赤になった。

「うんがぁぁあああああ!!!」
「アイリアイリアイリ! そっち外だから! めっちゃ寒いから行っちゃダメぇぇ!!」

先ほどまでカメみたいに毛布をまとっていたアイリは、脱兎のごとき速さで逃げ出してしまった。
落ち着かせるのに、かなりの時間を要したのは言うまでもない…………。

☆ ★ ☆ ★ ☆

「はぁ……疲れた……」

寒さでおかしくなっているのか、アイリも随分と変なことを考えて自爆する。
おかげで、こっちもちょっと顔が熱い。

「…………は、裸でなんだっけ?」

いやいやいや、思い出す必要はない。それが事実でも思い出す必要はない。
わざわざそんなことをしなくても食えば温まる。特に今年はショウガもたくさんある。
そんなことよりアイリだアイリ。
冬になってから起きるのも少し遅くなったし、かなり冬が苦手なのは分かった。

「なんかちょっと出不精にもなってるし……」

今度から一緒に朝食を摂るようにしようか?
幸いにも、冬までに貯めた椎の実や胡桃にはかなりの余裕がある。
なんなら、猟の本でも読んでウサギ狩りをしてもいい。

「……うん、そうしよ。そっちのが楽しそうだし」

素直に言えば、アイリに会う口実が増えて嬉しいだけだった。
となると明日の朝食は……、などと気が早
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