俺は勇者なわけで彼女に親魔領の自警団員にさせられるわけで

「・・・」

「なあ」

「・・・ん?」

「街の説明してくれよ」

「・・・ん」

レンガのしっかりと整った町並みを歩く俺とアルティ。
空はどす黒い訳ではなく、空気も特に違和感が無いのでここは魔界というわけではなさそうだ。ただ魔物がいるだけで教団の支配下の街とさほどかわらない。
しいて違いをあげるならば、行き交う人々が底抜けに明るい事くらいだ。
俺はざっと辺りを見渡しそう思った。

道の舗装は専ら赤いレンガが使われている。柔らかで主張をしない赤色はどこか暖かさを感じさせ、思わず見とれてしまう。
しかし、足元ばかり見ているのももったいない。

行く先々の店や建物が気になる。親魔領だからだろうか、知らない施設が多い。
そんな知らないことだらけの街を俺はぶらぶらと歩く。非常に気が楽でいい。
目的地はあるが、こう、制限時間というか刻限が無い、というのは不思議な感覚だ。と俺は左腕を見た。
そこにはリストバンドをして隠してあった物、砂時計の形をした烙印が黒々と存在を主張している。
悪くないデザインだが、『これ』の意味と烙印を押した奴を思い出し、胸糞が悪くなってきそうなので必死に袖を伸ばして隠した。運がよかったのか、ここはわりと寒い地域らしいのでおあつらえ向きに長袖だ。

ま、気になることが多いのは単にこうのんびりと歩くことがなかったからだろうな。
俺は欠伸をして腐りかけた思考に新鮮な風を送った。
・・・隣から非常に甘い匂いがする。

「おーい、アルティ」

「もしゃもしゃ」

アルティはさっきから延々とクレープを食べている。話しかけても、『ん』としか返さないのはそのせいだ。

実は病院を出てすぐ、甘いものが欲しい。なんて言って近くの店に突っ込んだのだ。

『特製クレープ・ブライトリリムの媚薬成分抜き、追加トッピングにスノーココア、その他トッピング増し増しのクリーム山盛りサイズ特大』

詳しくない俺でも短時間で食べられるはずがないと分かる物を彼女は今食べている。

・・・静かだ。少し寂しいかも―――いやいや、んな訳ある―――か。

正直、どんなたわいない話でもしていたい、という願望があることは認めるしかないな。俺は案外さみしがり屋なのかもしれん。と苦笑いをした。

無言ながら歩みは進む。
アルティは黙々とクレープにかじりついて街の案内をするどころではなさそうな状態だ。

「うまい」

うまいらしい。

くそ、こうなるのなら俺もクレープを買えば良かっ―――て金がないのか。
俺はがっくりとうなだれた。あれ、ものすごくおいしそう。

小動物のようにクレープを食べるアルティ。具体的に言うとハムスターとかリス。
で、気になったのだが。
と、俺は頬一杯にクリームとかを詰め込んだ甘党アンデッドに声をかけた。

「おまえ、アンデッドだろ?食べ物を腹に入れる必要があるのか?」

俺は今までで最大の疑問をぶつけた。

アルティは何か?という顔をしてこちらを向く。

「んくっ。ごちそうさま」

「ごちそうさまじゃなくて―――」

「偏見で女子から糖分を奪う気?
見ての通りだよ。アンデッドでも食べ物は食べる。人としては死んでいるけど、魔物としては生きてる。それが私たちアンデッド。ほら、一応、手、暖かいから」

アルティは俺に手を差し出す。
だが俺はそれを避けた。アルティは少し悲しそうな顔をしたが当たり前だ。

「おまえどさくさに紛れて俺の服でそれ拭くつもりだっただろ?」

そう、彼女のクレープは最後の一口、というところで爆裂したのだ。つかむところを間違えて『むにゅう』と飛び出たクリームが手についたアルティ。始めのうちは手をなめようとしていたのだが、面倒になったのだろうか、拭くために俺の服をさりげなくつかもうとしていたのがばればれなのだ。
今や俺には服というものはこれ一枚しかない。絶対に拭かせてたまるか。

「むう」

「むう、じゃねーよ全く。おまえさ、リッチっぽくないよな。子どもっぽいというかなんというか」

リッチ、といえば教団領で聞いた話では。限りない時を生きる邪な探究者。長い時間により倫理は腐りはて、生きている者との感覚はずれ、自身の研究のためなら何でもする凶悪なアンデッド。とされていた。
魔物にマイナスイメージがある程度無くなった今ならそんなことはない、と言える?が、どうもその話のせいで、リッチは老獪で冷静。賢者のように知識が深い。加えてマッドサイエンティストという先入観が出来上がっていた。

そう、アルティはあまりにも先入観からかけ離れているのだ。リッチと俺が認識できるには。すこし天然、というかふわふわしすぎだ。
唯一イメージに合うとしたら、何を考えているか分からない所だろう。

しかし、意外なことに、あれだけふわふわしておきながらアルティはそれを気に
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