魔力―――魔法、魔術を行使するための力のこと。
マナ、という万物に宿る自然魔力を体内に取り込み、自身の使いやすいように変質させた物と定義づける。
例えるならばマナが生水、魔力が紅茶だろうか。
魔物娘においては魔王の代替わりの際の体質変化により、マナを変換する能力が弱まってしまった。そのため、人間の男性から精という形で摂取する必要がある。
魔力は枯渇寸前まで減ると生命力の低下、気絶、等々の悪影響がでる他に―――
―――ぱたん。
私は本を閉じた。閉じた時の風に乗って少し年季入った本独特の匂いがする。興味を持ったので手に取ってみれば、基本しか書いていないような初心者向けの本だった。
ことん、と本をもとあった場所に戻す。他に面白そうな本は・・・今度探すか。
席に戻る時にちらりと隣のデュラハンが真面目そうに呼んでいる本の表紙が目に入った。
『少人数部隊のための編隊
防衛編1、インプさんのリアルな十字架』
・・・病院の待合室にしては大量に本があるため退屈しないのがここの良いところだ。私は額に手をあてながら、ぽすっと席に座った。
ここはリキュレールで最大の病院である。知っている病院の中では医療技術、医療魔術どちらも文句なしの最高水準だ。
そして本を棚に戻したのは、飽きたのと、もう1つ理由がある。今日、私をここに呼んだ張本人が顔を出したからだ。
「アウシェ、昨日届けた勇者について話したいことがある、と言っていたがどうしたのだ?」
私はやってきた腐れ縁に声をかけた。
それに相変わらずな能天気な笑い声で返すアウシェ。彼女はサバトの連中並みに薬品の扱いに長けた魔物だ。医者ではないが、並の医者より優れている彼女がここにいることに違和感はない。
「そうそう、その事についてだけど、あんたあの人から精を取れた?」
「あの人?」
私は椅子から立ち上がりながら聞いた。
「あんたが連れてきたあの勇者」
「ああ、運んでる途中に少しだけ冷気でいただいたが、問題があったか?」
こっちこっち、と手で合図をする彼女に着いていきながら言う。
手で呼び寄せておきながら、私の一言を聞くと、彼女は顎に手をあて、思案し始める。不能ではなかったのか、とかぶつぶつと。
「アウシェ、私を呼んでおいて自分の世界に入るな。早く用事を言え」
「あ、ごめんごめん、率直に言うけどあんたが連れてきたあの勇者の監視?をしてほしいんだ、大丈夫?」
私が文句を言った瞬間にこちらに向き直りそう告げた。
「別に問題はない」
私はアウシェと視線を合わせながら言う。それにありがと、と返事が返された後、私は彼女に連れられ、勇者のいる特別病棟に向かった。そして歩きながらの雑談。
「でもさ、やっぱあんた変わったグラキエスだね」
と自らの種族に合わないような軽い口調でアウシェは言う。私が変わっているならお前も変わっているぞアウシェ。私はそう言いかけて止めた。
本当に彼女は強気、厳格、高慢で知られるドラゴンだとは思えない。
まあ、菫色の鱗が有無を言わせないのだが。
ちなみに私が変わったグラキエスと言うのは納得したくないが、その通りだ。
まあ、紆余曲折があり、氷の女王様からこの街に住み込み活動しろ、とのお言葉をいただいた。それから長らくここにいる。それでいろいろと感化されてしまったようで、私の他の同胞と比べると随分私は性格が柔らかいらしい。いくら雪の多い地方とはいえ、大きな街に住むグラキエスなんて私は私以外で聞いたことがない。もっぱら誰も知らない洞窟か閑散とした集落に住んでいるのだ。
・・・探せば私みたいな例外はいるかもしれないが・・・。
・・・はっ、と気付き立ち止まる。
今度はつい私が物思いにふけってしまった。すまない、と一言謝り待っていてくれていたアウシェに話の続きを促した。
彼女は歩きを再開しながら構わないよ、と笑いさっきの話を続ける。
「あの勇者さあ、感情が全く見えないから勝手にダークプリーストたちが『救おう』としてたんだけど」
「だめだった、と」
にこにこしながらアウシェは頷く。
心なしか他人の玉砕っぷりを楽しんでいるように見えるぞ。不謹慎じゃないのか。
と私は思ったが、すぐに自分で結論がでて完結した。
・・・こいつは確か悪龍とか邪龍の類いだったな。と鮮やかにきらめく鱗に目をやる。菫色、つまり黒っぽい落ち着いた紫。明らかに正義側の色ではない。
彼女の性格上『私こそジャスティス!!』と叫びそうではあるが。
やれやれ、と私は首を振った。
「そうそう、で、彼女たちの誘惑をはね除けるなんて面白い、と知り合いのサキュバスが魅了行ったんだけど」
「その顔だと玉砕、か?」
信じられない、と目を見開く私。それに嘘ではない、と黙って目で語るアウシェ。
不能なのでは、と言おうと思った
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