「で、全く太刀打ちができずに転がされた、と」
リュオさんが私を見下ろしてため息をついた。私はあのマティアという魔物の手によりぐるぐる巻きにされていた。もちろん床に転がされている。私の扱いは悲しいかな、不審者だった。使用人嫌いのリュオさんの家にメイドがいるはずが無いと絶賛怪しまれ中。
客人だ、とリュオさんが言っても、絶賛怪しみ続行中。
というのと、リュオさんが、彼女に敬語を使ったり、さん付けしたりするので、しまった! と言う気持ちもなくはない。だが、私は警戒するのだ。
私の持っていた箒を片手に、彼女は私を見下ろす。その目には呆れと、どこか探るようなものを感じた。
あと、私、滅茶苦茶見下ろされているけれど、蔑まれているわけじゃないからね! 床に転がっているから、必然的に見下ろされちゃうんだからね!
……彼女曰く、『彼、つまりリュオ君だけれど、ようやく精神的に安定してきたんだ。すまないね、色々確認させてもらうよ』と言うことらしい。
しばらく応接間で話し合ってこの状態である。質疑応答、リュオさんの現状について、リュオさんから見ての私について、今の気持ちについて。ざくざくと聞き出していくマティアに私は警戒心剥き出しのムキムキ。そしてぐるぐる巻きのぐるぐる。
ぐるぐる巻き巻きぐるぐる。私は芋虫! 尺取虫的捕縛中移動術により、うぞうぞと動くと、マティアにチョップをされた。
「うびゃっ」
「こら、まだリュオとの話が終わっていない、動くな」
「ううううー」
縛りが容赦なく、さらには喋れないように口に余った紐をかませてあるのも口惜しい。
私はMではない! 私はキキーモラ! 私はリュオさんのメイド(予定)! たとえ芋虫になってもお傍に! ふんぬぅ! メラメラと闘志を燃やす私に気付いてか気付かずにか、マティアはまた、ため息をついた。その隣でルシオンとかいうお弟子さんは空気になっていた。そろそろ存在感が気化して空気に溶け出すころ。
「リュオ、改めて聞くけれど、これはキミのメイドかい?」
「いや、何度も言いますが、単なる客人、居候です。メイド服を着ているのは、悪い冗談だろう、と思っています」
悪い冗談!?
「だってさ」
「もごごご〜!」
だってさ、じゃない〜〜!! 私は涙目になりながら2人を睨んだ。どうやら、やはり私は認められていないらしい。ぐやじい!
床をばんばん叩きたくも、縛られているため、動けない。
「というかリュオ、キミはこういった格好すら嫌悪するくらい嫌いじゃなかったっけ、使用人」
思考が固まった。
聞きたくない。いくら、悟っていても、出来れば面と向かって言って欲しくはない。耳を塞ぎたくとも、両腕は縛られているし、何も出来ない。
……やめて。
そんな中、リュオさんは口を開く。私にできる抵抗は、ただただ目を合わせないことだけだった。
「嫌いです」
当然のような口調で彼は言い切る。
「所詮、雇われだ。忠誠なんて期待しないほうがいい」
ぼそりとした呟きで、でも、しっかりと聞こえる声が、呪詛のようであった。
「……で、そういうなら、この子を置いているのはどうしてだろうか。そんな事を思っているキミの傍にキキーモラを置いておくのは酷だと思うけれど」
「害はないと思ったからです」
「へぇ、特別なの?」
「はっきり言うなら、メイドらしくない。だから……気になりません」
2人が話をしているのを聞きながら、私は泣きそうになっていた。私は、私は、覚悟をしていたのに。知っていた、想像していた気持ちを聞いただけで、情けない。ぎりり、と歯を食いしばった。
……いくら食いしばっても、紐は切れそうに無い。一応私はウルフ属なのに。
私は、私そのものが嫌われたわけではないのだ。まだ、まだ、まだ、がんばれる。がんばらなきゃいけない。
私は気持ちを切り替える。心に無理矢理火をくべる。
「ああ、この子、ちょっと別室に連れてっていいかな。話したいことができた」
「大丈夫です」
向こうの話を聞いていたつもりが、いつの間にか自分の心と対話をしていた。私に対して言葉が向けられたのに気付けなかった。
耳に届いていたが、理解するのを保留していた言葉に耳を傾ける。そして、状況を把握しようとした、その一瞬。体が浮いた。
ひょいと軽々持ち上げられたのだ。流石に頭が真っ白になる。犯人はマティアだ。私の3分の2くらいの慎重しかないくせに、余裕で私を持ち上げたのだ。そして肩の上へ。俵でも担ぐような持ち方をされた。
……彼女が敵か味方かも分からない。何をされるのかも分からない。リュオさんに仕えることを最優先に考えるなら、危険は避けなければ。もし、彼女が、リュオさんに恋をしているならば。もし、ジパングで知った白蛇のように嫉妬深いのならば。
もやもやと危険な考
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