勇者を教込むは任の為

じゃらり、と小気味のいい音をたててカーテンを開いた。
この国の王様が私たちにくれた部屋は城の中でも上の方の階にあり、遠くまで景色を見渡すことができる。城自体が丘陵にあるのでなおさらだ。
窓枠の向こうでは夜の名残の濃紺と朝の始まりの橙が混ざり合っていた。その自然が作り出すなんとも言えないグラデーションを眺め、思わず私は頬を緩めた。

天にまします我らが主よ。今日も貴方の造り上げた世界は美しい。

空に同じく城下町もよく見える。まだ、まともに町に出かけてはいないのだが、私が見る限り、清潔で綺麗な町であった。これもまた、美しく、私にとっては守るべき場所だ。

……。

私は心ゆくまで町を染める朝焼けを眺めた後、窓からそっと離れた。
朝日が雲を抉って貫いたかのように朝焼けがよく見える今日の空。太陽の周りには全く雲はない。
だが、太陽から離れた所ではやや雲が多いのでしばらくしたら曇り空になるかもしれない。私はまだ多少寝ぼけている頭でそう考えた。
……まだ、なかなかこの感覚に慣れない。私は靄で霞むような思考を何とかして正常に治そうと苦心するが、どうやら時間の経過以外ではなかなか治りそうもないことが分かるばかりだ。
そう、私は天使とはいえ受肉しているのだ。睡眠は必要だし、その他もろもろ生物が受けるだろう束縛や制約は受けている。直に勇者を導けるという大きなメリットと共に肉体を持つ者特有の大きなデメリットが発生するのだ。

「流石天使は早起きだな」

「そういうナイの方が早いではないか」

私は声のした方を振り向き言葉を返した。そこには私が育てるべき勇者、ナイの姿があった。もちろん、この部屋にはナイと私以外がいることはありえないので当然と言えば当然だ。そう思いながら私は彼を見た。

私たち天使の持つ羽のような髪の色、身には昨日渡されたそこそこ高価な服を纏っているが、全く服に着られている感じはしない。年の頃、おおよそ16。会ったばかりの頃に青年と言ってしまったが、それは薄汚れていたのと、少年らしくない言動が原因だ。
こうして、昨日に色々とされ綺麗になった今、改めて見るまだ少し幼さが残る顔立ちだった。
そんな若い見た目のわりに物事に対する感動や驚きが薄いように見える。大人びた、というより……どうだろうか、何か違う言葉で言い表した方が近いかもしれない。
そして、彼の眼は深く、濃い金色。どこまでも底の見えないような瞳。
金色、それは名誉や栄光を表す色――

彼は気だるげに伸びをした。

……そういえばナイはしっかり寝られたのだろうか。
私の記憶が正しければ寝具を何1つ使わず、あまつさえ座り心地の良いと言えない物の上で寝ていたはずだ。

私の心配をよそに彼は腰かけていた机から降りる。

多少眠たげではあるが、ナイの目は何かぎらぎらと熱と光を宿していた。

ふむ、杞憂だったか。私はそう思いながら彼を見ている。

すると、ナイはぼさぼさの髪をかきながら太陽の光に目を細め、すぐ横に立て掛けていたらしい鞘付きの鉄の棒を手に取った。
鞘の方に背負うための紐が付いているので彼はそれを肩にたすきをかけるように背負った。彼は不機嫌そうな顔をよくするが、今日は殊更そんな顔をしていた。私が何かあったのか、と問おうと口を開けようとした瞬間にナイは人差し指を私の前に突きつけてきた。

「どうせすぐお前は訓練だ、修行だ、と言うだろ。さっさと行くぞ」

彼はぶつけるようにそう言って私に背を向ける。彼に何があったかは分からないが、少し雰囲気が変わっていた気がした。それをまた、問おうとして、止めた。
とにかく、自らを高めたいという意欲が湧くのは喜ばしいことだ。私はにっと笑う。

「では、朝食を取る前に少し鍛錬をしようじゃないか」

私たちはその後、あまりにも早朝のため誰もいない城の訓練場(一般兵士ではなく王族や城に住まう貴族、または騎士の位を得た者が剣技を嗜みで習う、極めんとして修行する場所)をしばらく占領した。
そして、ナイはいつもより早く力尽きて床に倒れる。まるで昨日一睡もしていないような雰囲気だった。
このまま無理矢理立たせて続けても良かったのだが、早朝という事を考慮して止めておく。
私はナイに肩を貸してそこから出た。
まあ、すぐにナイは『いらない』と言って1人で立ったが。

そして、その頃にはちょうどいい時間になっていたため朝食を取りに食堂へ向かう。
食堂という名の通りかなり広く、宮廷に仕えたり、住んだりしている者の食事場だ。付け加えて言うなれば位が貴族未満の者たちの、だな。

王や貴族たちが食事を取る場所はまた別にあるらしい。
まあ、防犯の機能上それが良いと私も思うので文句はない。

私たちは静かに食事を持ち、適当な席に座った。
大量に作ってある料理を好きなだけ(限度というも
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