俺は探すわけで、彼女の姿を探すわけで(後篇)

「まあ、リヴェル君のことだし。
言うまでもなく手伝ってくれると思うけどね」

コットンがそう言いながら扉の魔法陣に手を重ね、何かの魔法を発動した。薄く扉の魔法陣の上に新しく魔法陣が展開される。
言われずとも状況から、あれは解錠の魔法だろうと分かった。

「よし、準備できた。
トゥーモ、リヴェル君。どこでもいいからこの魔法陣に手を置いてくれる?」

「さっきの紙切れみたいに焼けないのか?」

コットンが催促する中、俺は真っ先に先程の出来事を思い出し怯む。しかし、すぐに吹っ切れた。
そう、怯んでいてはアルティに会えない。よって俺は恐る恐る扉に手を伸ばした。

「ほら、早く。焼けない焼けない。大丈〜夫」

そこでトゥーモが俺の手首を掴んで扉の魔法陣に押し付ける。
あいつ、せっかちかっ!?

「ちょっ!?」

心臓が止まりそうになった俺は文句を言おうとして、止めた。下らないことを言っている暇はない。気を抜けばアルティの組んだ扉を守る防衛用の術式で手痛い一撃を貰いそうだ。それに、何より、遅くなれば二度とアルティに会えなくなるような気がして―――。
俺はそうして目の前の魔法陣に集中する。そして、扉に触れたのになんともならない俺の体を見て理解した。

なるほど、コットンが展開したあの魔法陣は鍵の他に保護膜みたいな役目もするわけだな。
俺は改めて近くにいるコットンたちを凄いと感じた。
彼女たちが種族的にありえない領域の魔法を使う。
―――久々に俺が勇者でありながら落ちこぼれている事を思い出し、嫉妬が湧いてくる。
……嫌な考えに取りつかれそうになり、俺は深呼吸をした。今朝からどうしたんだ俺。どこかおかしいんじゃないか?落ち着こうとした先からそうやってまた不安定になる思考。俺は目の前の出来事により集中することで無理やり押し込めた。

俺が手を着けたのを確認するとコットンの発動している魔法の光が一際強くなった。

「よし、トゥーモ、リヴェル君!せーので一気に魔力を流すよ!強引に力でこの施錠魔術を壊すからっ」

ばちばちっと魔法陣から火花が散る。まるで、あれが耳を持っていて、今の会話を聞き、これからする事に反撃しようとしているが如く。
……あり得る。相手はアルティだ。魔術に長けるリッチという種族であり、防御、防衛系の魔法に関してはここの街の防衛設備に関わるほどエキスパート。だからあの施錠の魔法陣が自律行動をしてもおかしくない。
まあ、いいか。多分死ぬことはない。
俺は覚悟を決めて力を込める。

「せーのっ」



がごん!



強烈な魔力を解錠の魔術式と共に扉を封じている魔法陣に押し込む。俺たちが送った力の奔流が、それと同じもので構成されている幾何学模様に干渉して歪めていく。
この方法はいわばピッキングのようなもので、解錠の方法としては一番簡単だ。今回この方法でいくのは、アルティのような高位の魔術師が築いた封印の術式は完全にロジックや組成を解読するのに非常に時間を使うからだろう。

「まだいくよっ!せーのっ」



がぎん!



つまり、封印の完全解析だと時間がかかるならば、ある程度解錠の鍵に似た術式を用意してから、捩じ込んで開ければいい。
こっちは3人がかりだ。負ける可能性は少ない。
それに、この方法は正面から強引に破壊しにかかるより労力が少なくてすむ。

「せーのっ」



ぼごん!



轟音が空虚なこの場所に響く。
ここまでやればいけたか……?

「ちょっ!?これは……!すぐ離れて!」

突然コットンが叫んだ。刹那、急に体から力が抜け始める。加えて手が硬直して離れられない。コットンたちも叫んだものの離れられないでいるようだ。厄介なことにあの施錠式はコットンの魔法陣を吸収したようだ。微妙に大きくなり、構成も多少変わったのを確認した。
そして、防壁がなくなったわけで―――。

魔法陣の術式の一部が入れ墨のように腕に絡み付いてくる。
まさか……魔力吸収系の魔法も組み込まれているのか。
重くなる体と反比例するかのように頭ははっきりと働く。だが、はっきりとしていたところで俺の頭じゃ考えられる事はたかが知れている。
どうすればいい?死ぬまで魔力を吸われる事はないだろうが、これではまずい。
魔法を扉に撃ってその反動で後ろに飛ぶか?いや、魔力を吸われている状態でそれは難しい。うまく制御ができるかどうか。
くそっ、いくら考えてもどうしようもない事が分かるだけだ。誰かに助けを―――

「とりゃっ!ルセフィ参上!」

突然だが、ここで軽いノリのベルゼブブが突貫してきた。
そして、あいつが魔法陣から俺たちを引き離す。

強烈なラリアットをぶちかますという方法で。

「うりゃあ!」

弾かれてぽよんぽよんとゴム毬のように床を転がっていくコットン。床になぎ倒された俺
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