私は長剣を構え、少女と睨み合う。
彼女は少し宙に浮き、銀色に輝く鎧で身を固めていた。透き通るような真っ青な肌。さらに彼女を飾る今まで見てきたどのガラス細工より美しい氷。それらが視覚で鋭い冷たさを私に訴えてくる。
人間にはあり得ない特徴。
間違いなく魔物だ。私は無言で警戒し続ける。
「男が女に刃を向けて恥ずかしいと思わないのか?」
私がだんまりをきめこんでいると、目の前の魔物がそう言った。抑揚の無い感情のあまり乗っていない声。見た目と同じく氷のような声だった。
「恥ずかしいも何も、魔物を浄化する。これが仕事ですから」
私は淡々と問いに返す。向こうはそれを聞いてやっぱりか、とばかりに首を振った。
「はあ、そうだろうな」
彼女も淡々と表情を変えないまま業務的に言い放つ。しかし、ただ、それだけで空気が変わった。風が殺気を運んでくる。
「安心しろ、殺しはしない」
氷の少女は組んでいた腕を戻し、構えた。
刹那、私に吹き付ける吹雪がより強くなった。なるほど。今まで教団の騎士はこうして引き返すことを余儀なくされてきたのか。
私は平然と武器を構えながら思った。
この地域を攻めようとするも毎回吹雪で断念してきた、と聞いている。単なる自然の気まぐれ、と思っていたが魔物の仕業だったのか。確かあの特徴からいくと氷精、グラキエスだろう。氷の魔力の具現のようなものだと教団からは聞いている。
しかし、残念だが―――
どふっ、と雪を巻き上げながら私は跳んだ。一直線に、鋭く。
―――私は寒さを感じない。寒さで動きが鈍ることもない。
そのまま勢いを殺さずグラキエスの懐に入りこみ、斜め下から斬り上げた。
それをグラキエスは容易く避ける。ふわっ、と後ろに下がった彼女を捉えようと剣を振った反動を生かし、1回転してもう1度斬撃を浴びせる。
しかし今度は突然出現した氷に受け流されてしまう。刃を砥石で削るような音をたてて長剣は見当違いな方向へと導かれる。
剣を大きく逸らされた隙を見逃してはくれず、グラキエスは私に突進。拳を振りかぶり私に叩きつける。
がぃん。
金属同士がぶつかるような音、重い一撃。
なんとか私は剣から片手を離し、籠手でその彼女の拳を防げた。しかし、予想以上に強い。華奢な腕、鎧を着ているとはいえすらりと細身なのが分かる体。それに不釣り合いな先ほどの一撃。私は拳を繰り出した体勢からすでに戻っている彼女を見る。やはり魔物は人より強靭に出来ているようだ。
私は殴られた勢いも利用し、後ろに大きく下がる。防いだ腕が多少痺れているが問題ない。すぐ治る。
どっ。私は着地したが、衝撃で足が雪にすこし埋まった。
表層以外は寒さと雪の重みで凍りついているのでさほどめり込んではいないが、これはさすがに不利すぎる。
私はその腕をそっと剣を握る利き手の下に添えた
恐らく、彼女は私と同じかそれ以上に氷を扱える。さっきの異常な威力の拳撃も素手でやったのではない。私にはうっすらと拳を氷がコーティングしていたのが見えた。
まさに手足のように氷を操れるのだろう。
そんな相手に足場が悪い状態で互角以上に戦えるはずがない。なぜなら、彼女は浮いているからだ。ただでさえこの地相に愛されている氷精にこれ以上実力以外の差を作るわけにはいかない。油断していた。私に冷気自体は効かないので大したことはない、と。
「『冷装』」
ぶぅん、と私の魔力が私を覆う。身体強化、護装系の魔法だ。これで常に私は冷気を纏った状態になる。体が多少蒼白く光るようにはなるが、足元の雪を触れた瞬間に凍らせて足が沈まないようにはなる。
氷の槍が私の側頭部を掠めた。どうやら思考を巡らせる時間も命取りのようだ。
ボッ、と私の後ろに聞こえたのは着弾音だろうか。この音の感じだとかなり地面・・・雪か、が抉れているはず。
様子見、と手を抜くなんて出来そうに無い。
キキキキン。
今度は私の周囲を氷の矢が囲んだ。さっきの槍ほどの威力は無いだろうが、当たるのはさすがにまずい。私は目を閉じた。ぼんやりとしていた感知結界による物質察知が鋭敏になる。
まだ感知結界が生きている間は有利だな。
私は感知した矢の向き、数。体感している風の強さ、予想される矢の発射速度を瞬時に重ね合わせる。そして目を開けた。
それと同時に迫り来る矢と矢。予想したよりわずかに遅い。私は計算した結果を基準に最小限の動きで矢をかわす。どの矢も的確に戦闘の継続が困難になるような場所を狙ってきている。最後の1本を長剣で弾き地面に落とす。相手の戦闘スキルの練度が勇者並みに高いことが改めて分かる。
これで人間なら教団が泣いて欲しがるな。・・・いや、笑って、へりくだって、騙してでも手駒にするだろう。逃れようのない陰惨な花一匁の開催は確定だ。
私は少し跳び強烈な回し
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