『おい、落ちこぼれ。俺はとうとう『ナイフ』から『ブレイド』に上がったぜ』
『……』
『お前は相変わらず、って訳だな。ははっ』
『……』
『おい、聞いているのか?
……馬鹿にされてるんだぞ』
『ああ、殴りかかったところで『ナイフ』のどん底が勝てるはずがないしな。リュファス』
『……。
おい、
ふざけるんじゃねぇっ!!』
『待て、何でお前がキレるんだ?』
『勇者の肩書きはお飾りか!?金持ちのボンボンで偶然勇者になれたような奴に置いてかれてるんだぜ。親が三流騎士なら子供も三流勇者か。はっ、お似合いだな』
◆◇◆◇◆◇
『勇者リヴェル・フィルド、勇者リュファス・ティネール・カツァロキーナ。私闘をしたそうだな』
『すみません』
『申し訳ありません』
『お主たちの敵は魔物と分かりきっておるのだ。無駄な行動は慎むように。勇者同士争うなどとは不毛だとは思わんか?』
『『承知しました』』
『後、勇者リヴェル。少し残りなさい。ミィソス、旧い時代の身体改造法を再現したそうだな。丁度良い。これに刻印の準備を』
◆◇◆◇◆◇
『――以上が『砂漏陣』の効果だ。危機が訪れたらそれを使えばよい。なに、デメリットはないぞ、心配はいらん。遠慮なく使え。お前に才能がこれっぽっちもなくとも、だ。しっかり使えるように感情が極限まで高ぶっても発動するようにもしてある。
そうだな、例えるならばいざというときに辺りを発破できる爆弾が手に入ったようなものだ、喜べ』
『……はい』
◆◇◆◇◆◇
『父さん』
『何だ?』
『左手に―――
なんでもない』
『……そうか、では、まず姿勢が悪い。歩き方も立ち方もなっていない。そこに立て。矯正してやる』
『……』
『どうせ勇者教育の連中はお前をまともに見ないのだろう?丁度良い。次は剣を持て。誰よりも辛辣に酷評してやろう』
◆◇◆◇◆◇
◇◆◇◆
◆◇
◇
◆
◇
目が覚めた。
非常に懐かしい夢を見た気がする。
……。
俺はベッドから出て着替える。
オリキュレールは寒冷な気候だが、部屋には魔力で動く空調装置があるためさほど不便は感じない。
最近アウシェの余計なお節介があり、やっと衣服が手に入った。
が、どれもこれも必然的に暗めの紺や紫系のコーディネートになる。
くれるのはいいが色が彼女の趣味丸出しだ。俺はやれやれと首を振りながらタンスから中身を出す。
まあ、毒々しい色でない分感謝すべきか。
いや、そう上から言える立場にないな、俺。
色々と振り回されているが、結局は助けられている。
特に『落ちこぼれ勇者』としてでなく一人の『人間』や『隣人』として見てくれる。これが一番救われた。
俺は最後に濃紫のコートに袖を通した。
タンスから出したばかりの衣服たちはひんやりとしていて目が冴える。
本当に肌触りがいいせいか何割か増しで冷たい。
俺はその後すぐに洗面所に行って顔を洗い歯を磨く。
朝食は――今日はいい。
食欲がない。それに今食べたら戻しそうだ。
からん、と歯ブラシをガラスのコップの中に戻す。
そしてそのまま俺はベッドに戻り、腰かけた。
一人の朝は教団領にいた時から変わらないいつも通りの朝のはずだ。
だが、何かが足りない。
何故だ?
俺は窓の外を眺めながらその足りない何かを探す。
が、このパズルの残り数ピースが足りないような感覚は埋まらない。
何か――いや、誰か?
俺は毛布を軽く叩いた。
―――そうか。
アルティ、か。
俺はため息を吐いた。
アルティ、魔物であり、上位アンデッドのリッチ。俺がこの街に住むことになった原因の一つ。
そいつは毎朝気がついたら俺の近くにいたのだが、今日はいない。
金縛りの霊の如く俺の上に座っていたり、俺の真横で無防備に寝ていたり。
今まで面倒だ、としか思っていなかったが、いなかったらいなかったで何か物足りない気がした。
一体何なんだ。
低血圧気味で回らない頭をかきむしる。
答えは出ない。何も、言葉にできそうな物は見つからない。
……。
一人でいると気が滅入りそうになってきた俺は外の空気を吸おうと玄関に向かった。
瞬間、ドアがノックされる。
玄関に向かっていただけあり、俺の反応は早かった。
飛ぶようにドアに駆け寄り、開く。
どうしてそんなに慌てたのか、自分でもよく分からない。ただ、アルティかと思って開けた、のかも知れない。
だとすれば、俺は失念していた。
今俺が寝床として使わせて貰っているのは魔法科の建物の一室。
つまり魔法科に所属する者のための寮のような物だ。
よってアルティ以外も俺の部屋を訪れうる。
というか、アルティは俺の住み処に上がるのにノックなんてしない。
そんなわけで俺
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