「ああ暇だ」
「……同感」
俺は椅子に腰かけのんびりとくつろいでいた。アルティは俺が何気なく呟いたそれに同調する。
俺はすることがないので『禁書の海』から借りた魔道書のページを開いた。
こうなった理由は少し遡る。
今日から数日前の結界の仕事の時にリムリルという泥酔リリムが襲撃してきた件について色々あった。
アウシェが言うには
『ごめんね〜もう少し捕獲が早ければなんとかなったんだけど。そうだ!お詫びというか、君たちにしばらく休暇をあげよう。どのみち魔法科結界系の仕事って週二回だっけ?まあいいや、一ヶ月くらいのんびりしてていいよ』
だとさ。
つまり、この暇の正体は有無を言わせぬ強制休暇なのだ。しかも長期。さらに有給らしい。
なんだこれは!と教団の所にいた時と全く違う領主の暢気さに俺は頭を抱えたのだった。
それにしても教団で恐れられている魔王の娘を軽く捕まえるってあの紫竜、本当に何者だろうか。
まあ、そんなわけであれから数日後の今、ゆったりとした午後を送っている。
場所は自衛団詰所。
以外とここの居心地は良かったりする。
ここにいると時々非番でも何かに駆り出される可能性はあるが、一日中暇よりはましだ。
それに、賑やかで退屈しそうにないしな。
ちらりと横を見ると、そこに以前顔を合わせた詰所のメンバーがいたりする。
真っ先に目につくのは誰をとは言わないが誰かを引っかけるための自称『悪質でお茶目なトラップボックス』を作成中のミィ。
初めて会った時は自信作らしい『紙吹雪ショットガン』を食らって窒息しかけた思い出がある。
ほんと退屈しない。逆に命の危険を感じる。
ちなみに彼女は工作科という所に所属しているらしく、仕事はまんま魔法具の作成、改良、管理。
他には諜報活動とか言っていたが、長らくそれはしていない模様。
彼女が詰所にいるのは時折魔法具の修理を頼まれるかららしい。
……それを聞いて自衛団とは何でも屋集団だと俺は思った。
自衛『隊』でもなく『自警』団でもなく『自衛団』。どことなく抜けた感じがするのは否めない。
ついでに、この詰所のような所がこの街には数ヵ所あり、治安を守ったりなんだりしている。
らしい。
「出来た!ねぇねぇリ〜〜ヴェルっ。かかってみない?」
箱入りモンスター、ミィが俺を見て話しかけてくる。爛々と目を輝かせながら凶器をふりかざす。
物思いに耽っているうちに完成させたようだ。
それで、またか、また俺を実験台にするのか?
「ねぇ〜〜」
ミィが黒煙と火花を散らしている小箱を弄りながら俺を見つめた。
はっきり言って嫌だ。昨日は『めっさ滅殺君きびきびキリング斬り斬り舞ver七号』で死ぬかと思ったし。
「そんな〜折角『爆発四散Ai-e001号』を完成させたのに〜」
よく分からないが、その得体の知れない箱を近づけないでほしい。それと、その意味不明なネーミングセンスはなんだ?
俺は出来るだけ体をミィから遠ざける。
死にはしないだろうが、危険とわかっている物からは離れたい。
アルティやフォレアが言うにはミィにしては珍しいくらい俺に懐いているらしいが、困ったものだと思う。
おい、だからミィ、危険物こっちに向けんな。
今俺は椅子に座っており、なおかつあまり動けない状態にあるからどうしようもない。
俺はミィが死を匂わせる小箱を俺に使う前に言う。
「アルティ、そろそろ普通に座ってくれないか?」
そう、今上手く動けないのはアルティがやけにくっついてくるからだ。
特にあのリムリル襲撃事件からやけにくっついてくる。
落ち着くからとか言って気付けばぴったりと近くにいたりするのだが、今回は――
――俺の膝の上。
ちなみに追い払おうとしたら金縛りを食らった。
訂正。
目が合ってそらした瞬間に金縛りを食らった。その後膝に乗られた。
一分後に解けた時に追い払おうとしたら再び金縛りを食らって今に至る。
「嫌。椅子冷たい」
「タオルでも敷けよ」
オリキュレールは寒冷な地方であり、春→秋→冬→さらに冬→春と季節がループするような土地らしい。
今は長い冬季であり寒い。
椅子が寒いとアルティの言うことは最もだが。
「寒いからって軽々しく適当な奴の膝の上に乗るなよ。軽い奴だと思われるぞ」
「軽いの?……よし、減量成功」
「違うって」
俺はため息を吐く。
前いた教団の町ではこういう親しい(?)女性がいなかったせいでどうすればいいか分からない。
とにかく、アルティはここ最近特にこんな感じだし、対応に困る。
……。
無理にでも離れた方がアルティのため、か。
俺は目を閉じた。
真っ暗な瞼の裏にイメージを描く。
何のイメージかというとアルティにかけられた金縛りの魔法のだ。
そして魔力をたどり、俺の体を縛る魔法を構
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