あれから少し騒動はあったものの、比較的楽に収まった。
現在、全員席に座り、自分の席の前に一つずつ出現した結界のミニチュアを眺めている。
ちなみに、皆が囲んでいる机はアルティが会議用の長机とか言っていたが、中々に立派だ。具体的にはよく貴族の晩餐と聞いてイメージするような長くて幅があるあんな机だ。普通城とかにあるべきで『禁書の』と接頭語が付くが図書館にあるべき物ではないくらいに高価そうだった。
この『禁書の海』はどれだけ金がかかった所なんだ?俺は魔物の勢力には絶対に反魔勢力は勝てないと思ってしまう。
その上に乗っている、いや発動しているのは結界。この机の上に人数分並んでいると形は違うがまるで料理にかぶさる銀の蓋(正式には何て呼ぶのだろうか)のようにも見えなくもない。
それはアルティが持っていた巻物のようなものに書かれた結界の術式、それを極小スケールで発現させたものだ。
今回の物は普通に発動すれば街全体を覆い攻撃を防ぐ物らしい。
それの欠点を探し、より完成させる。完成させ、街の中央の城にある結界展開装置の水晶に新しく刻むのだそうだ。
これがアルティたちの仕事らしい。
また、小さな巻物や水晶などに結界術式を刻み誰でも使用できる個人防護結界の作成などもしているようだが、今回の作業はこの街の防護結界の調整のみだそうだ。
ちなみに個人防護結界の道具作りは街の守りに使われている術式を流用して作るらしい。
魔法科は転移ゲート管理などなど他にも仕事があるらしいが、アルティの管轄は結界のみと言っていた。
きっと俺のこの後の管轄もこの感じだと結界系になるのだろうか。
そういうわけで俺は目の前の半透明な三角錐を見つめている。硝子のようでその実硝子の数倍の強度を誇るだろう魔力の壁。
アルティはやはりリッチだったのだ、と感慨深く透き通ったそれに触れた。
しかし……欠点を見つけるったって何をすればいいのか。俺はお手上げ状態だった。
俺は教団に『お前は武術系』と言われていたため興味があっても魔術理論なんて詳しく知らない。
俺は算数しか知らない子供が関数論やらlogの微分やら積分の詰まった紙切れを見たような反応をしながら唸った。
分からない。
そんな時、大きな動きを見せる奴が一人。
「そぉ〜いっ!」
トゥーモだ。
彼女はどこからともなく金槌を取り出し、結界に向けて降り下ろした。
大雑把にぶうんと降り下ろされた金槌は見事結界に受け止められる。ミニチュアはびくともせず鉄琴を叩いたような澄んだ音がした。
なるほど、やることは単純に強度チェックとかなのか。トゥーモのおかげで理解できた。難しい事は考えずとりあえず叩け、と。
アルティも他のメンバーも頭が切れるようなので簡単な説明で……いや、説明もなく『わかった』という顔をするからトゥーモみたいなタイプは助かる。
行動が分かりやすくて。
俺は金槌を机に置いて首をかしげるトゥーモを見ながらそう思った。あいつ、深く考えてなさそうで楽そうだよな、と。
そう考えているとトゥーモはアルティを手招きして呼んだ。
アルティはくるりとトゥーモの方を向く。
「あのさ、三角錐型だと強度にむらが出ない?だから半円、ドーム状にした方が良いと思う。後さ、衝撃は弾くんだけど硬すぎて逆に脆いかも。少し衝撃を受け流すために弾性持たせてみてもいいかもね〜。あ、このミニチュアの耐久性、実物の何分の1に設定してある?それ言ってくれないと困るかなぁ」
「あ〜、強度は5000分の1くらい」
こいつ、考えてやがる。『本の虫』の異名は伊達では無かったか。
ぽけ〜っとした顔をしながら凄まじい勢いでアルティに言うトゥーモ。人は見かけによらない。
まさに今、典型例というやつを見た。
じゅうぅぅぅ。
間髪入れず嫌な音がしたので振り向くと――
「アルティさん、毒魔法で簡単に溶けますよ」
無残に溶けた結界を大百足の千幸が眺めていた。結界のあったらしき場所には毒々しい色の液溜まりができている。
ぼふん。
「あ、急激な温度変化には強いね、さすが」
続いてルセフィが炎と氷を辺りに浮かべながら言う。
「『グラビティ』」
ごしゃあ。
さらにその横でコットンが黒色の過重力空間を作り出し結界を押し潰した。おい、高位魔法だぞ、それ。
「う〜この感じだと耐久性はオッケーかな〜」
コットンは残骸を見ながらうんうんと頷いた。
各々好き勝手に無限に自動生成される結界のミニチュアを壊していく。
しかも、一つ一つが高度、または変態的な技量の魔法を持ってして。
様々な技巧を凝らして結界を破壊していくさまは紛うことなき変態。変☆態。
というか結界の試験とはいえ簡単に壊れすぎだろう。こんな強度で戦争から街を守れるのか?
俺は心配になってアルティに聞こうと
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