雪が降っていた。
私の息まで白く染める寒空が真っ白な雪を降らせていた。
果てのない灰色の空と白銀の大地。
その風景に溶け込むような純白の鎧を身に付け私は歩いている。
見た目こそはこの環境に溶け込んでいるが、私のような男はこの場所にとって異物だ。
はぁ、と息を吐く、白い。
さくっ、と足元の雪をすくう、白い。
・・・暑い時にこれがあればさぞかし気持ち良いだろうな。
なんていう楽天的な考えは思い浮かばなかった。
なぜなら、私は氷魔法を得意とするからだ。自らの魔法を通して果てのない銀世界、極寒の大地の怖さを十分に知っている。その空間において人間はいとも容易く凍死する。いくら屈強な猛者であろうと寒さの前では紙装甲、というやつだ。
「・・・寒い」
氷使いにあるまじき台詞を白い息と共に吐く。まあ、その声は誰の耳にも入ることはないが。
私の持つ属性は氷。しかも、一般レベルよりかなり上らしい。よって冷気に強いどころか真冬でも霜焼けすらしない体質だ。温度変化を起こす系統の魔法の使い手にはよくあること、と聞いている。とにかく自身の冷気に殺られないよう凶悪なまでの冷気耐性がついているとのことだ。
私自身そのことはよく分かっているし、体験している。冷気で自身が傷つかないことくらい。
しかし、『癖』というやつはなかなか抜けないものだ。『寒い』それが口癖になってしまった私はつい、それを口に出してしまう。
―――さくっ、さくっ。
私は白銀の絨毯の上に一番乗りの足跡をつけ続ける。私の通った跡はすぐに降り積もる雪で上書きされ、足跡は残らない。
この雪原を越えた先に目的地があるはずなのだが、一向に見つからない。
日が暮れるまでに安全な場所を確保しないと寝るところもない。
まったく、ないない尽くしでどうしようもない。私はため息を吐く。まだまだ体力は有り余っている。しかし、気力の方が先に尽きそうだ。
・・・・。
吹雪いてきたな。
私はさっきまで静かに積もっていた雪の変化に気づく。風は彼を拒むように向かい風になり、雪の量も明らかに増えてきた。
進みにくくなってきたか。ここらで休憩でもするとしよう。
じゃっ、と鞘から長剣を抜き放ち、横に剣を払う。
舞い上がる白い塊、それと同時に響く轟音とその数秒後に何か重いものが落ちる音。私は魔力を込めた剣撃による衝撃波で目の前の地面に積もる雪を吹き飛ばしたのだ。出来上がったのは軽く人が入れるくらいの窪み。私は剣を鞘に納めた後、その窪みに入る。深さは一番深い所で2メートルと少し。窮屈な事にはならないと思う。
さて、これくらい広さがあれば良いか。ここで吹雪が大人しくなるまで待とう。これは言うなれば掘り炬燵の極寒仕様、雪製の塹壕、自分専用に特化したシェルター。だいたいそんな感じか。冷気に晒されても命に関わらない私だから使える安全地帯の確保方法だ。
そっとこの窪みにおいて壁になっている雪に触れる。とりあえず雪崩れてきて生き埋めになりたくないから固めておこう。
「『氷床』」
ブゥン、と手に魔力が集まり青く光った後、その手が触れていた所を中心にして雪の表面を氷が覆っていく。これで壁は固定された。
次は・・・
青く光り続ける左手を今度は私の真上に持っていく。すっ、と伸ばした指を虚空に滑らせ、そして指を鳴らす―――
―――そういえぱ籠手をつけていた。
撤回。指は鳴らさず伸ばしていた指を戻し握り拳を作る。こうした一見魔法と無関係な動作も無駄とは言いがたい。魔法はイメージで練り上げるものだからだ。
「『氷壁』」
一瞬後、金槌で金属を叩いたような軽く澄んだ音と共に氷の天井が現れた。同時に手に集中させていた魔力を霧散させ、仕上げに感知結界を張る。範囲は大体―――ここを中心に半径50メートル。張った理由は雪が止んだら分かるように、だ。しばらくしたら雪で間違いなくこのシェルターは埋もれる。誰からも見つからなくなるのはいいが、出るタイミングを見失うのはまずい。
私は目を閉じて感知結界が私とリンクしているかどうかを確かめる。
・・・雪が下へと叩きつけられる風景が浮かぶ。時折より強い風が吹き、地面の雪を巻き上げる。そんな様子が見えなくとも大体感じられた。
私は、よし、と呟く。しっかりとリンクが出来ている。問題はないな。私はゆっくりと目を開けた。
これでいつも通りの引きこもりシェルターの出来上がり。私は壁にもたれ掛かった。見ての通り、私は雪原でのサバイバル、生活においてパターンが出来ている。私の能力をより強力にするため2〜3年雪原で修行をさせられたからだ。少年と呼ばれ柔軟になんでも取り込める時期に無慈悲な自然の中に放り出されたからこそ、こうした独特のスタイルと力が身に付いたのだ。
・・・まあ、力の対価として感情が希薄にな
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