俺の故郷では勇者がぼこぼこ生まれるので教団の息がかなりかかっていた。
勇者は強さごとにランク付けされ、相応の待遇を約束されている。
また、勇者として生まれずとも後天的に勇者の力を主神様から授かることもよくあった。ゆえに能力のある子どもは教会に集められ、鍛え上げられた。
まあ、金持ちの親が息子を勇者にしたいと袖の下で潜り込ませたボンボンも時々いたが。
しかし、基本的にそんなやつでもまるで大安売りのように勇者になっていったが…。
そこそこ鍛え上げられていたら見境がないようだ。
確かに、戦力になれば身の上なんて関係ないからな。
まず、素質を認められ連れてこられたやつらは【原石】、ストーンと呼ばれる。これが最も位が低い。
次のランクからは魔術か武術、どちらに適正があるかで呼び方が変わる。魔術なら【宝石】で武術なら【鉱石】だ。
俺は武術の方に資質を見出だされたわけで【鉱石】になる予定だった。
まあ、どっちかというと今は魔法の方が得意になってしまったが。
最後に【鉱石】は勇者になると【ナイフ】【ブレイド】【ソード】と上がる。
あくまで護身用、気休めにしかならず決定的な戦力にならない【ナイフ】
ナイフより厚みを増したが柄がなくただの刃。洗練されておらず未熟な【ブレイド】
柄が付き、銘を刻まれ洗練された一振りの剣。その姿は憧れであり、武勇を体現する【ソード】
さらに【ソード】で格が上がると、レイピア、クレイモアといった各人に合った称号が与えられる。
俺は教団に引っ張られていく前に勇者になったため始めから【ナイフ】だった。
よって【原石】から苦労して勇者の力を授かった連中や、力に自信があるが、いまだ勇者になる兆しのない連中からの視線が痛かったのを覚えている。
特に、俺みたいに飛び抜けた能力のない勇者は嫉妬と嫌悪の的だった。
……なぜ、こんなつまらない事を考えているか?
単純なことだ。
現実逃避した(足が痛)いからだ。
俺は正座をさせられていた。
誰に?そう、アルティに。
思案顔のリッチが何を言い出すかと思えば、『東洋にはセイザという足にくる座り方があるみたいだよ』と。
俺はジパング人ではないので、脚が死にそうだ。何が正座だ、ジパングの座り方だ、あれは拷問だっ!
……何故に正座をさせられているか?
ああ、俺が彼女お気に入りアンティーク机を叩き壊したから。加えて、安眠妨害をしたから、だ。
流せるものなら俺は血涙を流したい。足が、死ぬ。破裂する。
アルティは相変わらず無表情で俺を見つめてくる。そろそろ解いていいかと聞きたいが、そんな表情なので言っていいのか分からない。
泣けてくる。
感情に任せて動いたら良くないって本当なんだ、と見に染みて実感できた。
「後悔してるし、反省もしてるからもう正座を止めさせてくれ」
「やだ。もう少しこのまま」
アルティはほんの少し笑いながら言った。
体勢も問題だ。
普通の正座ならば俺の足はここまで感覚を失っていないはずだ。
俺はさっきまでアルティと俺が寝ていたベッドに正座をしている。それは痛いのを最低限にしようとかいう理由ではない。
アルティが唐突に正座をしている俺を見て言ったからだ。
曰く『枕にできそう』と。
はい、現在絶賛膝枕中。アルティが膝の上から俺を見つめてます。
……本来ならば男女逆なのではないか?
俺は腹の奥から突き上がる叫びを噛み殺す。
「これなら寝られると思ったけど、寝られない。睡眠はたとえアンデッドでも思考を整理するのに効果的な方法なのだけど
……使えない枕」
文句を言っているくせに楽しげなアルティが呟く。
気のせいかいつになく目が爛々としている。そりゃあもう、遠足を次の日に控えたちびっこのような顔だ。寝られそうもない。
アルティの口元が少し緩んでいる気もするが、俺は無表情な彼女の見すぎで表情がゲシュタルト崩壊したのだろうと思うことにした。
「へいへい、俺は枕じゃないぞ、と」
「……使えないリヴェル」
「おいぃぃぃ!!それはないだろ!」
俺はつい勢いで無理矢理立ち上がった。
そのはずみで同時にアルティの頭が俺の膝からベッドに落ちる。
しまった、と思った刹那、足に言い表せない感覚が走った。
じぃん、と地面に足が着く度に脈打つような不快感が足に広がる。あ、これか。正座とやらの威力は。
俺は立っていられずベッドから転げ落ちた。
「ふふ、天罰」
にこりと笑いながらベッドの上から悶える俺を見ているアルティ。
今までで一番楽しそうな顔をしているかもしれない。
くそう、悔しい。
数十秒床を転がり回ってようやく痺れが治まるとアルティの寝転がっているベッドに向かった。
「そろそろ起きよう、それで魔法科を案内してくれよ。シ
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