童話いなくなった王様『原典』

魔王様が今の魔王様に変わってすぐの頃、まだまだ世界にはたくさんの教国がありました。
そこには、主神様の教えを信じる人たちが住んでいます。
今では教団の人たちがいるから危ないよと言われる主神様を信じている国々ですが、この頃は素敵な国がたくさんありました。
主神様の言葉を柔軟に解釈し、重い税もなく、飢えもなく、スラムもなく、みんなが幸せに暮らしている教国は珍しくありませんでした。
ちなみにその素敵な国は今ではほとんど魔界や親魔領になっているのですぐに見に行くことができますよ。

さて、これはそんな時代、魔王様の代替わりする頃の話です。



むかしむかし、あるところに、小さな国がありました。しかしながらその国の領地は豊かでたくさんの作物が実り、人々は幸せに暮らしていました。
聡明な王様としっかり者の大臣、そして働き者の兵隊さんに信心深い住民たち。
貧困に苦しむ民もなく、不衛生で疫病が流行るわけでもなく、夜な夜な殺人鬼がぎらりと光るナイフを持って歩き回っているわけでもない素敵な国。
そんな理想の国がありました。

ただ、1つ問題があるとしたら、それは近くに魔界があることでした。
魔王様が今のサキュバスの魔王様になるまでの魔物は狂暴でした。人の形をした魔物はごくわずかで、そのごくわずかの話が通じる魔物も話が分かるからといって進攻を止めるわけではありませんでした。

王様は大臣と兵士長と毎日国を守るために会議をしました。
なにせ嵐の日も建国記念日も眠くて仕方がない春の日も魔物は攻めてくるのです。
向こうも怪物ばかりとはいえ、学習するものです。次から次に作戦を立てなければ愛する民の命は守れません。
だから王様は毎日頭を抱えて頑張っていました。

そして寝食を惜しんで頑張った王様たちに神様がご褒美をくださったのか、兵士長は勇者の力を授かりました。
兵士長、いえ、勇者様は今こそ魔物たちに反撃する頃だ、と言いました。

なぜなら、ここ数ヶ月ぱったりと魔物たちの進軍が止まり、見張り塔の兵隊たちの目にも見えなくなったからです。
攻撃がないということはいつまとめて攻めてくるのか分からないことです。
だから、いっそのことこちらから攻めてしまおうということでした。

今、勇者様という相手に知られていない切り札がいます。
加えて、いつ来るか分からない魔物たちに備えていつもよりちょっぴり多めの税を民に払ってもらっていたので武器は十分にあります。
そう、今までにないくらい準備が整っていました。


もちろんその提案に王様は頷きました。


勇者様は魔界に進軍します。勇者様は兵隊たちの先頭で大きな旗を掲げて、腰には立派な剣を差して旅立ちました。

ぞろぞろと兵隊をつれてどんどんと勇者様は進んでいきます。

ミントのような風か吹く野原や、チョコレートの匂いがする洞窟を抜け

コバルトブルーに金色の日光がぐるぐると踊っている湖を迂回して、上に向かって落ちていく岩山を越え

花火のような大輪の花が咲き誇る森やトパーズの砂利でできた海岸を通って

ようやく勇者様たちは魔界に着きました。
さあ、戦いだ、と剣を構える勇者様の前に1人の女の人が現れます。その人は人間とは思えないほど綺麗な人でした。

勇者様も兵隊たちもみんな国を守ることに一生懸命だったため将来を誓った恋人もおらず、思わず見とれてしまいます。

このチャンスを見逃すわけはなく、女の人は勇者様たち全員に簡単な魅了をかけてしまいました。
女の人はサキュバスだったのです。

サキュバスは勇者様たちをその魔界の主のエキドナの所に連れていきました。
魅了がかかっている上に魔界にいる勇者様たちがサキュバスに逆らえるはずがありません。
勇者様たちは嬉しそうについていきました。
そしてエキドナから全てを知らされるのでした。

まず、魔王様が代替わりしたこと。

次に、魔物たちが人を殺さなくなったこと。




そして、今、魔物は人間を世界をだれよりも愛していること。

それを知りました。

勇者様たちはとても驚き、歓声を上げました。
もう殺さなくていいのです。死ななくていいのです。

もう、ゆっくりと寝られるのです。

あまりの嬉しさに勇者様は来たときの半分の時間で故郷に帰りました。

全てを王様に伝えるために。









しかし、勇者様が見たのは変わり果てた国の姿でした。

外周の住宅地はぼろぼろになり、中央の都市部は立派になり、お城は眩しいほど豪華になっていました。

どうしたものか、と勇者様は民に聞きました。

民が言うには王様はほんのちょっぴり多い税に酔ってしまったみたいです。

魔物を倒すためにちょっぴり多くした税が、勇者様たちが出発したのであまりました。
それをついつい使っているうちに味を忘れられなくなった
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