俺の仕事が決まったわけで彼女は平常運転っぽいわけで

紫色のドラゴンは悪戯っぽく笑った。
口調は軽く、態度も友好的。プライドも高くはなさそう。完全に圧し殺しているのかもともと無いのか、覇気や殺気の類いの圧迫感や緊張感を感じない。
そのせいで俺の信じていた覇王のようなイメージがリアルタイムで崩れていく。
どうにかしてくれよ。あの軽さ。

「失礼なっ、私は歴としたドラゴンなのにさ」

いじいじと人差し指同士をぐりぐりし始めるアウシェ。
いや、だからそれがドラゴンらしくないんだ・・・って。

「人の心を読まないでくれっ!」

「だって顔に書いてあるからさ、『問おう、あいつはドラゴンか』って」

頬を膨らませながら言うアウシェ。ここまで子どもっぽいドラゴンはこいつくらいなのではないか、と俺は思った。

「ええい、話がこじれる!もうどうでもいいからする事を教えてくれっ!!」

俺は相手がドラゴン(圧倒的格上)ということを忘れ、そう叫ぶ。
咳やくしゃみが出るときと同じように全く自制が出来なかった。

しかしアウシェは怒るでもなくにやにやと俺の様子を見ている。

・・・このドラゴンらしくなさは天然かわざとか分からない。
前者でも後者でも厄介な事には変わらないが。

頭の中のドラゴンのイメージと実物。
猛々しく狂暴な竜と眼前の覇気の欠片もない彼女。
・・・。
ぐるぐると思考を回しているとアウシェがよし、と呟く。
そして俺に向けて口を開く。

「うん、リヴェル君には街の中の見回り系統の仕事をお願いしたいかな。
あと、そんな感じで魔法科に回ってくれる?あそこ人手いつも足りないし。入るのが戦士科だといつか人員が溢れそう。あ、詳しくはアルティに聞いてね、っと。こんな感じでいい?」

いかにも今決めましたとばかりに言い出すアウシェ。

こんな感じで大丈夫か?

そう思った俺は不信感を丸出しにした表情をしたのだろう、彼女は少し真面目な顔になった。

「リヴェル君、不安そうな顔してるけど大丈夫。私は人を見る目はあるつもりだから。適材適所なはず」

最後に、にいっと笑いながらアウシェが胸を張って言う。その後、急に頑張れ、と言わんばかりに親指を立てるアウシェ。

やっぱ軽くて信用しにくい。

しかし、そう思いはしたものの、彼女の菫色の瞳の体の奥まで刺し貫くかのような力強く鋭い視線に俺は納得させられてしまう。
実際に自分でも前線での戦闘はきつい、と自覚しているので確かに彼女の言う通りだ。
あんなでもドラゴンだ。宝石を鑑定するように人の能力もある程度鑑定出来るのだろう。
と険しかった表情を緩めた。
そんな俺の様子を見てアウシェは頷く。

「うんうん、じゃあ頑張―――」

満足げな彼女はそう言いかけて急に体を強張らせた。
その整った顔に悪戯がばれた子供のような表情を浮かべる。

「げ」

アウシェはそう一言漏らすと間髪入れずに凄まじい速さで飛び去っていった。

ついでに、巻き添え!と言いながらクロネと戦っていた青年の服の襟首をつかんでさらっていく。

「ああ、ユウ君。お疲れ様」

クロネは悟ったような顔をしながら手を合わせた。

・・・いったいなんだったのか。
俺の頭のキャパシティーを軽く超えたこの濃密な時間に頭を抱え込みたくなる。
が、そう簡単に現実逃避をさせてくれないのが現実だ。

ずどん。

重たい音が俺を思考の世界から現実に連れ戻す。目の前にはまたドラゴン。

「失礼、アウシェ様は今どちらに向かわれただろうか?」

「北東」

降ってきたドラゴンに即座に返答するアルティ。それを聞いたドラゴンのため息には疲れを主成分とする諦めが入っていたように感じた。

・・・これから色々と慣れないといけないだろう。
俺は胃が痛くなりそうだ。と腹をさすった。
そしてふと思う。

あのドラゴンは一体何だったのだろうか、と。


◇◆◇◆◇◆


「というわけでリヴェルさんは魔法科ということで決定したいと思います」

「え〜工作科!工作科!」

俺たちは机を囲んでいた。俺の処遇に対しての話し合いだ。
そして、突如現れ突如去っていったドラゴンの言っていたことがまかり通ろうとしている。
というか通ってしまい、俺は街中の見回りが主な仕事になり、自衛団の中でも魔法科なる所に所属することなった。

「ふぃ〜終わった終わった〜」

とりあえずそれで会議的な何かは終わり、だらけた空気が伝染する。主にというか全般的にフォレアが原因だが。

と俺は他人事のようにこの場を眺める。

もといた教団領ではこんな事なんてなかったので戸惑うが、これはこれで心地いいと思ってしまう。

「工作科!工作科!」

そして、それでも諦めず自分の管轄に引っ張ろうとするアクティブな箱。

一転して賑やかになり始めるここだが、それよりも俺はさっきのドラゴンが気になっていた。

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