「…………腹減った…………」
快晴の空、穏やかな風、青く透き通る海。
目の前に広がる光景はまさしく絶景と言えるだろう。バカンスなら文句の言いようがないシチュエーションだ。
だが、今の俺の気分は良いとは言えない。寧ろ目の前の景色とは対照的に、暗くてドンヨリとした心境だ。
と言うのも……俺は観光客じゃない。それに此処は休暇を楽しむ為のオアシスでもない。
「遭難してから今日で五日目か……意外と生き長らえれるもんだな」
早い話、俺は遭難者だ。そして此処は無人島。住人はおろか、野生動物すら見当たらない島だ。
「ちっきしょー……なんでこんな目に遭わなきゃならねぇんだよぉ……」
砂浜に立ちすくみ、波の静かなせせらぎを聞きながら、俺は過去に起きた人生最大の不幸を思い返した。
事の始まりは五日前……こう見えて俺は海賊だった。ちょっとばかり人遣いの荒い船長の下でせっせと働く生活を送っていたが、それなりに充実していた。
だが、あろうことか俺の海賊人生はたった一週間で終わる羽目になってしまった。
あの……超大物海賊の手によって。
『我は黒ひげ!歯向かう者は吹き飛ばしてくれるわ!!』
……よりによって初めての海戦の相手が伝説の海賊だなんて、全くついてなかった。
俺ら下っ端は黒ひげに敵う道理なんて無いと思い、船長に逃げるよう説得したが、船長は首を縦に振らなかった。それどころか、自ら黒ひげの首を取ろうと先陣切って刃を構えたのだが……。
『覚悟しろ黒ひげ!一瞬で決着を着けてやる!』
『……爆破』
パチンッ!
ドカァァァァァン!!
『あへぇぇぇぇぇぇぇ!!』
以上、船長と黒ひげの戦いの様子。言葉通り一瞬で片付いちゃったよ、黒ひげの勝ちで。船長を空の彼方へとぶっ飛ばしてお星様にしちゃった。
しかし、指を鳴らしただけで爆破を起こすなんて、あれにはビックリさせられた。あの能力を目の当たりにして誰もがヤバいと悟り、早く逃げようと思ったのだけれど……。
『仕掛けておいて逃げるでないわぁ!!』
ドカァァァァァン!!
ドカァァァァァン!!
ドカァァァァァン!!
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『お助けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
『船長のバカヤロぉぉぉぉ!!』
喧嘩を売られておきながら逃げられるのが気に食わなかったのか、黒ひげの攻撃は本当に容赦無かった。爆破は俺らの海賊船まで巻き込むほどの威力で、たちまち焼き尽くされてしまった。
燃える海賊船の中、逃亡を決断した俺は海へ飛び込んで必死に泳いだ。どこへ向かっているのか分からなかったけど、それでも泳いで、泳いで泳いで泳ぎまくった。
「あ〜やっべぇ……喉も渇いてきた……」
その末にたどり着いたのが、この無人島。島に着いた瞬間には力尽きて気絶しちゃったけど、目を覚ました時には体力が回復していた。それから俺は島を散策しながら今日まで生き延びてきたが……何分食料と言えるものが極端に少ないこの島で生き続けるのは無理だと思えてきた。
そのうち、商船とか客船とかがこの近くを通る。最悪、海賊船でもいい。そんな淡い希望を抱きながら海を眺めているが、今日にいたるまで船なんて一隻も通らなかった。一人で過ごすうちに助からないんじゃないかと思うようになってきた。気力と体力は徐々に減る一方だけど、助かる希望はもっともっと減少するのみだ。
「……はぁ……」
あ〜あ……こんなことになるのなら、海賊にならなきゃ良かった。職を失ってから自暴自棄になって、勢い余って海賊になった時からこうなる運命だったのかもしれない。今思えば、もう少し冷静になって真面目に仕事を探した方がマシだったようだ。
……俺……本当にどうすりゃいいんだよ……。
「……ん?」
絶望感に浸っている最中だったが……ふと、海の様子がなんだか変だってことに気付いた。いや、正確には……海の一部がおかしくなってるって言った方がいいか。
「なんだあれ?」
僅かながら、海の中に黒いシルエットが潜んでいるのが見えた。
その影はどんどん大きくなっていく。まるで……こっちに近づいて来てるみたいだ。いや、間違いなくこっちに向かってる。
「あれは……魚?」
影の形がぼんやりした楕円形から徐々にハッキリと具体的に映ってきた。
「いや……人魚!?」
最初こそ魚かと思ったが、上半身の辺りは人間の身体に見えた。
と言うことは……もしかして人魚か!?
やった!ようやく希望の光が見えてきたぞ!
「おーい!こっちだー!助けてくれー!!」
俺は精一杯の大声を上げて人魚に呼びかけた。
人魚は魔物の中でも比較的大人しい性格だ。俺の話も耳を傾けてくれるはず。事情を説明して助けを呼んでもらおう。
「おーい!こっちに来てくれ
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