夜空に青白い月が浮かぶ中、俺は船長室の窓から静かな波のさざめきを聞きながら俺の最愛の妻であるサフィアが来るのを待っていた。
今日は一日中目的地に向かって海を渡っていたが、これと言って変わった事も無く、戦闘も無い、平凡な一日だった。
いや、平凡だったのは今日だけじゃない。かれこれ五日間もこんな状態が続いた。この五日間の間で二回程島に上陸したが、二回ともただの無人島で、危険に遭う事もなく一日停泊しただけで終わってしまった。
海賊として旅をしていて、こんなに平和な日常があっても取り分け珍しくはないが、海賊の性分からだろうか……スリルを求めるあまりにこの退屈さには辟易していた。
「……つまんねぇ……」
思わず口に出してしまった…………。
平和がなによりって言うが、ここまで平和が過ぎるのも考えものだ…………。
俺がそう思っていると、誰かが部屋のドアをコンコンとノックしてきた。
お!サフィアか!?
俺は窓を閉めて叩かれたドアを開けに行った。
「お待たせしました、キッド」
予想は見事に的中。ドアを開けたら、そこにはシー・ビショップであり、俺の妻でもあるサフィアが微笑んでいた。
この笑顔を見ていると、さっきまでの退屈さや辟易が全て残らずに吹き飛んだ気がした。
「待ってたぜ、サフィア」
俺はサフィアを寄せて額に唇を落とした。その時、サフィアは頬をほんのり赤く染めて照れくさそうにしながらも俺に身体を預けてきた。
「……キッド、とりあえず、部屋に入りませんか?」
「……ああ、そうだな」
俺はサフィアを部屋に入れさせ、念の為にドアに鍵をかけてからベッドに座らせた。
「ピュラは大丈夫なのか?ちゃんと寝てるか?」
俺はサフィアの隣に座り、片手でサフィアを寄せながら言った。
ピュラはサフィアにとって妹の様な存在であり、現在共に旅をしている子供のマーメイドだ。普段サフィアとピュラは同じ部屋で寝ているが、サフィアが俺の部屋に行こうとすると、
『私もお兄ちゃんの部屋に行く!』
と言って必ず付いて行こうとする。更に、部屋に入るなり俺に甘え、サフィアと口論になるのがお決まりになった。
「ピュラなら大丈夫です。シャローナさんにぐっすり眠らせる魔術をかけてもらうように頼んでおきましたから」
シャローナはこの船の船医を務めているサキュバスだ。医術だけじゃなく魔術にも長けており、戦闘においても引けを取らない活躍を見せてくれる。
あいつの魔術にかかっているなら、心配無さそうだな。
「……ねぇ、キッド…………」
突然、サフィアが徐に俺から身体を離し、少し不安げな表情を浮かべた。
……どうしたんだ?なんでそんな顔をするんだ?
「……何かあったのですか?」
「……え?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
何かあった?なんでそう思うんだ?
「いや……別に、何もないけど…………」
「そんなハズは無いです。だって、最近のキッド、なんだか元気が無いですよ?」
どうやらサフィアから見れば、今の俺はどうかしてる様に見えるらしい。
「仲間のみなさんは、口を揃えて『すぐに元気を出すから大丈夫』なんて言ってましたけど……私、心配で……」
顔に出る程、最近の俺の心境は分かりやすいものなのか。なんとも情けない……妻であるサフィアにだけは余計な心配をかけたくなかったんだがな。
「キッド……私たちは夫婦です。何か悩みがあるのなら、遠慮なんかしないで何でも言ってください。私が、キッドの悩みや苦しみも、全て受け止めてあげますから」
サフィアは両手で俺の手を優しく握り、優しく微笑んでくれた。
……ここまで優しくさせておいて、何も話さない訳にはいかないな。
俺は、自分の心境をありのままに話す事に決めた。
「……全く、可笑しい話だよな。平和な日々に嫌気が差すなんて」
「え?」
サフィアは目を丸くしたが、俺は構わずに話し続けた。
「平和が続くのは良い事だって分かってるさ。だが……なんかさ、あまりにも平和すぎて、その……気が萎えるって言うか……何と言うか……」
あまり良い説明とは言えないな。自分自身でつくづく思った。
自分の心境を人に説明するのがこんなに難しいとはな……。
すると……。
「…………分かりました」
サフィアは頷くと、着てる衣服を全て脱ぎ始め…………って、えぇ!?
「ちょ、サフィア!?」
「要するに、キッドは暇で仕方が無かったって事ですね?それなら、暇にならなければ良いんです」
「いや、だからって、なんで服を脱ぐ!?」
「なんでって……私がキッドの部屋に来た意味、知ってるでしょう?」
そういえば……そうだった。
今晩は楽しもうって事になってたんだった。忘れてた訳じゃないが、自分の心境を話すのに夢中になり過ぎた。
「それに、夫の悩みを
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