スイッチ、オン

「……もうやだ……ホントやだ……」


パソコンの画面に映ってるメールの文章を読み終えた途端、とてつもない虚無感に包まれた。


『残念ながら、ご希望に沿えない結果となりました。今後のご活躍をお祈りしております』


言葉遣いこそ丁寧だが、要するに不合格ってことだ。
この文章を見るのもこれで15回目。ここまでくると流石にうんざりする。

「俺の何が気に食わなかったんだよ……祈ってるんだったら、せめて教えてくれよ……」

モヤモヤした感情を抱いたままベッドの上に大の字になって寝ころんだ。

「あ〜あ……俺って必要な人間だと思われてないのかな……」

弱音を吐いてみたものの、現在一人暮らし中の俺の言葉を聞いてくれてる人は、この部屋には存在しなかった。
大学を卒業するために必要な単位は修得したし、卒業論文においては教授が太鼓判を捺してくれた。ハッキリ言って、無事に卒業できる自信はある。
だが、卒業した後の進路が未確定だと何の意味も無い。就職活動を始めて数か月経ったが、未だに勤め先が決まりそうもなかった。
食品、鉄道、出版等々……様々な業界を見て回り、気になった企業にエントリーし、時間をかけて履歴書を書き、面接する度に不採用通知を受け取る。最近こんなことの繰り返しだ。

「……はぁ……」

職に就くのは簡単じゃない。そんなの分かり切ってるつもりだった。何度も自分に言い聞かせた。だが、10社以上もエントリーしたのに1つも内定が取れないとなると流石に凹んでしまう。将来に対する不安も募っている分、内心穏やかじゃなかった。

「……はぁ……」

本日2度目のため息を吐いたところで、自然と顔をテレビへと向けた。テレビを支える台座のちょうど真下には、PT3(プレイターミナルスリー)と言うゲーム機が置かれている。
……そうだ、こんな時こそあの子に会おう!あの子の頑張る姿を見れば、絶対に元気が出る!
そう……俺の心の女神に癒してもらおう!

「よっし!」

俺はベッドから下りて、早速テレビの電源を入れた。すると、東京の街中を大声でリポートするお笑い芸人が映る。でも正直言って興味無いのでチャンネルを変えた。
画面はまたしても真っ暗な状態になったが、これはゲームで遊ぶ為のチャンネルなので当然だ。テレビの下にあるPT3の電源を入れれば、すぐにゲーム画面に移り変わる。

「こんな時こそ、ゲームでリフレッシュしないとな!」

そう、俺の趣味はテレビゲームで、少しでも時間があればゲームに没頭するほどのゲーム好き。
このPT3も、バイトで稼いだ金で買ったものだ。ゲーム機を買うために汗水流して工事現場で働いたのも、今となっては良い思い出だ。

「スイッチオン!」

ゲーム機の電源スイッチを押すと、真っ暗な画面に文字が浮かび上がる。

『CAPTEN』

これはゲーム制作会社の名前で、俺が今から遊ぶゲームはこの会社が作ったものだ。
会社名が薄らと消えると、画面に広大な海の景色が浮かび上がった。3Dを上手く駆使した、鮮やかで綺麗なオープニングムービー。メインテーマのイントロが流れると同時に一隻の海賊船が映った。そこの甲板に立っているのは、多少癖のある髪の男。


『行くぜ、野郎ども!!』


勇ましく叫ぶこの男キャラはキャプテン・キッド。ゲームの主人公だ。


『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


キッドの声に応えるかのように雄たけびを上げる彼の部下。するとカメラのアングルが空へと向けられ、大砲の音が鳴り響くと同時に文字が浮かび上がった。


『海賊BASARA 〜海の英雄〜』


これこそ、このゲームのタイトルだ。
海賊BASARA……名前の通り海賊のキャラが所狭しと戦うアクションゲーム。バッタバッタと雑魚敵を倒す爽快感、スタイリッシュなアクション、そして個性溢れる海賊キャラクターが話題となった名作である。
発売されてから2年は経つが、俺は今でもこのゲームが大好きだ。海賊とアクション……俺の好きなジャンルが揃っているこのゲームはまさに最高の作品とも言える。今でこそ新作ゲームは次々と発売されているが、海賊BASARAにハマってからは興味が湧かなかった。

「さて……」

早くプレイしたいと思った俺は、コントローラーを手にとってベッドに腰かけた。コントローラーのボタンを押してムービーをスキップすると、今度はゲームのトップ画面に切り替わる。
もう一度ボタンを押してメニュー画面に移った。

『ストーリーモード』
『ステージセレクト』
『ギャラリー』
『オプション』

などの項目の中から、俺は迷わずにストーリーモードを選んだ。すぐさま画面がキャラクターを選ぶ場面に切り替わる。

キッド、オリヴィア、メアリー、長曾我部奈々、黒ひげ……
個性的なゲームのプレイヤーキャラがズラリと並べられる
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