「はぁ、はぁ、はぁ……」
参ったな……こんなにも苦戦するなんて久しぶりだな……。
「うふふ……良いわねぇ、その苦しそうな顔♪私ってサディストだから、男の子を攻めて苦しめるのが大好きなのよねぇ……暴力的に♪」
目の前で艶かしく指先を舐める女。その笑顔は背筋が凍るほどおぞましいものだった。
「とんだ悪趣味だね……下劣極まりない」
「なんとでも言いなさい。そもそも貴方こそ大丈夫なの?まだ私に一太刀も浴びさせてない上に、ボロボロにされる一方じゃない」
「まだ終わった訳じゃない……これから逆転してみせるのさ……」
とは言え……正直、追い詰められてるのは事実だ。僕の方は一方的にやられてばかりで、相手はまだ余裕の笑みを浮かべている。危機的状況に変わりなかった。
くそ……あの能力さえどうにかすれば……!
〜〜〜(数十分前)〜〜〜
それは……街から遠く離れている森の立ち木の葉に隠れながら、仲間たちに指示を出している最中での出来事だった。
「……今のところ順調かな」
僕は水晶玉を通して仲間たちの指揮を執り、順調に国民たちを魔物化させていった。
本来なら僕も現場で直接指示を出した方が手っ取り早いのだろうけど……発情しきった魔物娘に襲われるのは勘弁願いたい。
理由は勿論……離れ離れになってる恋人、ルミアスだ。彼女と再会して、再び結ばれる約束を交わしている身分として、他の魔物に襲われる訳にはいかない。それに、指揮者を務めている僕が姿を隠せば何かと都合が良い。敵が指揮者を仕留めようとしても、僕さえ見つからなければ問題ない。ほとぼりが収まるまでは、此処で待機しているつもりだった。
「あとは……残ってる兵士を誘導して……」
……その時だった。
「み〜つけた♪」
「!?」
ドンッ!
「うわぁっ!」
大きな木の枝から墜落しそうになったものの、なんとか受身を取って咄嗟に体勢を立て直した。
「見つかっちゃって残念だったわね」
そして僕を木から落とした張本人は、華麗に着地して体勢を立て直し、改めて僕と対峙した。
「困ったな……」
「うふふ……どんな男かと思ったら、結構可愛い坊やじゃないの♪」
僕は先程まで大木に隠れていたけど、彼女によって見つけられてしまった。
妖艶で、それでいて冷たい笑みを浮かべているレオタードスーツの女。何者かは知らないけど、敵である事は瞬時に察した。
どうしたものか……バレる展開は予測してたけど、こんなにも早く見つかるなんて思わなかった。
「……随分と手荒な挨拶だね。危うく怪我するところだったんだけど?」
「あら失礼。怪我じゃなくて致命傷を与えるつもりだったのよ」
サラッと身の毛がよだつ事を言う……なんとも怖い女だ。
「で、君は一体誰なんだい?」
「いいこと坊や、名前を聞くのなら自分から名乗るのが常識よ」
「……それは失礼。僕はヘルム。海賊さ」
「よくできました♪私はJC。お察しの通り、あなたの敵よ」
大人びた……と言うか偉そうな態度で名乗ったJC。やっぱりこの女、ベリアルの仲間のようだ。
「敵と言う事は……やっぱり僕を殺しに来たんだね」
「そりゃあね。私、こう見えて殺し屋だし、人を殺すのが仕事だもの」
「……殺し屋?」
「そう。私ね……ベリアルに雇われた殺し屋なのよ」
そう言いながら、挑発的な眼差しを向けながら艶かしく舌舐りしてきた。
待てよ……殺し屋?ベリアル側にそんな職業の人間が居たなんて……いや、あの男なら雇っても不思議じゃない。否……粗方、アイーダと同じように洗脳されているのだろう。
「ベリアルも全く侮れないね……あろう事か殺し屋まで洗脳するなんて」
「あら坊や、それは誤解よ」
「誤解?」
「確かにベリアルの部下の男が洗脳術を扱える事は知ってるわ。でも私は洗脳なんてされてない。自分の意思であの男に雇われたのよ」
「なんだって?」
つまり……洗脳の被害に遭ってないって事か。言われてみれば、確かにJCは洗脳されてる兵士と比べてよっぽど雰囲気が生き生きとしている。それに、洗脳された人間はベリアルに様を付けて呼ぶのに、この人はベリアルを呼び捨てで呼んでる。これらを考えると、どうやら嘘を言ってる訳じゃなさそうだ。
でも妙だな……操られてないのに何故ベリアルに従うんだ?
「じゃあ君、なんでベリアルのような男に従っているんだ?あいつがどれほど危険な奴か、分かってない訳でもないのに」
「別に、大した理由なんて無いわ。ギブアンドテイクの関係よ。奴からお金を貰う代わりに、私は与えられた任務をこなす。ただそれだけ」
「……正直言わせてもらうけど、君は雇い主の選択を誤ったんじゃないかな?」
個人的な意見を言うと、殺し屋なんて好きになれない。人の命を奪う事を仕事にするなんて理解に苦しむ。
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