「……ふん!くだらねぇな……」
此処は王の間。一国を治めるトップが君臨する場でもある。その最奥の階段を上がった位置にある王座に腰掛けながら、無能な国王から奪い取った指輪を片手に持ってまじまじと見つめた。
何が形見だ。弱い癖に粋がって、みっともない。
「そんな陳腐な戯言を並べてるから、こうしてあっさりと侵略されるんだろうがよ」
高級素材で出来た椅子の背もたれに寄りかかりながら、ぼんやりと天井を見上げた。
国自体は貧弱だが、流石に王の椅子なだけに座り心地は極上の逸品だ。座面も背もたれもフカフカで心地良い。国一つ守れない爺には勿体無いものだ。俺にこそ相応しい。
……ここで一眠りするのも悪くねぇな……。
「ご機嫌いかが?新しい王様」
「あん?……あぁ、お前か、JC(ジェイシー)」
いきなり女の声が聞こえた。高い位置からやけに広い部屋を見渡しても、俺以外の人間の姿は見当たらない。だが、声を聞いただけで誰が王の間に入ってきたのかすぐに分かった。
この女は身体の透明化を得意とする。大方、透明のままこっそりと此処に入って来たのだろう。
全く……おっかねぇもんだよ、殺し屋なんて。
「隙を見せない方がいいわよ。そこで居眠りしちゃったら格好の的だもの」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで姿現せ。何時まで透明になってるつもりだ?」
「相変わらず怖い人ね……」
ため息混じりの言葉と同時に真正面の階段下から、何処からともなく一人の人間の女が現れた。深緑色の長い髪に整った顔立ち。
そして一番特徴的なのはその格好だ。首から足のつま先まで見事にフィットしたレオタード風の黒いスーツ。豊満なバストやヒップなど、ボディラインをそのまま強調している姿はまさに男を誘う痴女そのものだ。
一見すると美人の類だと思われるが、こいつこそ正真正銘の殺し屋、JCだ。
「来るんなら来るで普通に扉をノックくらいしたらどうだ」
「あら、ごめんなさい。金属の音は陛下様にとって耳障りかと思って」
「てめぇ、気遣いがそんな変な方向に向く性質じゃねぇだろ」
「お堅いわねぇ。レディのつまらない冗談でも笑って受け止めるのが紳士じゃないの?」
「全く持ってどうでもいいな」
何が紳士だ。そんなもん何の特にもなんねぇだろうに。
「……で、例の件はどうだ?」
このまま下らない話をしてたら埒が明かない。とりあえず話を以前頼んでいた仕事に振った。
「それが、何度やっても連絡出来ないのよ。相手側が応答してくれないの」
「……ふん、まぁいい」
どうやら奴らと連絡が取れないようだが……こちとら計画実行の為の下準備は整った。急かしても意味無いし、待っていればその内来るだろうよ。
「あら意外。あなたの計画に必要不可欠だって聞いたから身を案じると思ったのに……淡白な反応ね」
「用件が終わればその場で全員葬り去る予定なんだ。捨て駒に情けなど必要無い」
「まぁ、悪い人。同盟相手が哀れだわ」
「知るか、そんなの」
以前から同盟を組んだ海賊共……正直、あいつらの事なんかどうでもいい。俺が必要としてるのは力で、あいつらとの信頼関係じゃない。
不要な情ほど弱みになる。用が済めばさっさと縁切り。それだけのこと。
「……ねぇ、ちょっと訊いてもいいかしら?」
妖艶漂う笑みと、真偽を見定める視線をこっちに向けながらJCが徐に口を開いた。
「あなたは……何故今回の計画を実行しようと思ったのかしら?」
「……あ?何を今更そんなことを?」
「興味本位よ。雇い主の事情に首を突っ込むのは野暮だって、十分分かってるわ。でもあなたの言動だけはどうも引っかかってね……」
「……聞いたところでどうするつもりだ?」
「別に。私は相応の報酬さえ貰えればそれでいいし」
……つくづく食えない女だ。
「……醜いものばかりが蔓延してるこの世界を、無の世界に変える。たったそれだけだ」
「ふ〜ん……で、『無』ってどういう意味?人も魔物も消し去るってこと?」
「極端な言い方だが……まぁそういう事だ」
「そう……でも腑に落ちないのよねぇ」
「……何がだ?」
JCは俺が被ってる鉄仮面を指差しながら言った。
「あなたって普段からその仮面を被ってる所為で表情が見えないのよ。でもね、見えなくても薄々感づいちゃうのよね……」
「だから、何がだ?」
要点をもったいぶるような話し方が癪に障り、多少イラつきながら再び問い返した。
「あなたねぇ、計画が着々と進むにつれて……なんだか悲しそうな雰囲気を出してるわよ」
「……なんだと?」
……悲しそうだと?この俺が?
何を訳の分からん戯言を。俺が何時、どこで、何を悲しんだと言うんだ。
疑問が浮かんでる俺になりふり構わず、JCは挑発的な、それでいて疑いを込めた眼差しを向けてきた。
「あなたが言う
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録