メイドっぽいヴァンパイアはお嫌いですか?

「え〜っと……次は液状のFe(鉄)を入れて……」

外がすっかり暗くなってる最中、私は海賊船の医療室にて新薬の開発に勤しんでいた。
まぁ、開発と言っても、フラスコの中に様々な液体を入れて混ぜるだけの単純な作業だけど。

「あとは、このバリウムを……よし!完成!」

スポイトで吸い取ったバリウムを一滴だけフラスコの中に入れると、青みがかかった液体が完成した。
さて、後は予め読んでおいた実験台が来てくれるのを待つだけね……。

「シャローナ、いるか?」

お!噂をすればなんとやら。
医療室の扉をノックする音と同時に、聞き慣れた声が上がった。

「はいはーい!ちょっと待ってねー!」

私はそそくさと医療室の扉に向かい、内側の鍵を開けて扉を開けた。

そこには、予想通りの人物が立っていた。ヴァンパイアのリシャスちゃんだ。

「わざわざ此処に呼び出すとは……何の用だ?」

リシャスちゃんは細くて綺麗な腕を組み、どこか怪訝な表情を浮かべていた。

まぁ、理由も無く呼び出されたら疑いたくもなるわ。でも、それも直ぐに杞憂に終わるけどね♪

「ささ、立ち話もなんですから、とりあえずいらっしゃい♪」
「ああ、邪魔するぞ」

医療室へ入るよう促すと、リシャスちゃんは素直に部屋に入って来た。

「あ、リシャスちゃんはそっちに座って」

リシャスちゃんは私が指定した椅子に腰かけ、私も研究用のデスクに腰かけリシャスちゃんと向かい合った。

「ごめんね、急に呼びだしちゃって。迷惑だった?」
「いや、取り分け問題無い。で、話とは何だ?」

リシャスちゃんに話を促され、私はコホンと咳払いをして話を切り出した。

「うん、あのね……リシャスちゃんて、ホント毎回頑張ってるな〜って……」
「何の話だ?」

眉を顰めながら問いかけるリシャスちゃんに対し、私は話を続けた。

「ほら、いつもいつもコリック君の為に船長さんと話し合ってるでしょ?愛する旦那様の為に必死になって説得して……ホント偉いわ」
「そ、そうか……?」
「そうよ!ここまで甲斐甲斐しくしてくれるお嫁さんがいて、コリック君は幸せ者よ♪それに、一生懸命夫を支える妻って素敵じゃない♪」
「……ま、まぁ……私はコリックの妻として当然の事をしたまでだ……」

リシャスちゃんは視線を逸らしながらも緩んだ表情を見せた。
よしよし、上手い具合に乗って来てるわね♪

少しだけ補足すると、リシャスちゃんは夫であるコリック君を愛するあまり、過剰な行動に出てしまう事がしばしばある。
その例えの一つが船長さんへのクレームであり、何かと付けてコリック君の昇格を要求してくる事がある。船長さん曰く『そろそろ耳に胼胝が出来そうだ』との事。

「でも、船長さんったら、全く話を聞いてくれないでしょ?」
「……そう、そうなんだ!」

微笑ましい笑みがいきなり怒りの表情へ一変し、私は思わず怯んでしまったが、リシャスちゃんは構いもせずに凄味を効かせながら話した。

「昨日、コリックの戦利品を金貨30枚分昇給するよう交渉してたところだったんだが、キッドの奴『高過ぎて払えるか!』とか言って承諾する気がないんだ!」
「へ、へぇ〜……そう……」

あぁ、そう言えば昨日の夜は騒がしかったわね……。あの騒々しさの原因はリシャスちゃんか……ホント、毎回よくやるわ。

「全く、何で30枚も払えないんだ?そこまで貧乏と言う訳でもあるまいし!」

……いやいやリシャスちゃん、金貨3枚ならギリギリセーフでも、30枚は高いわ……ってか、私だって欲しいわよ、そんな大金…………。

「で、でね!そんなリシャスちゃんの為に、凄い物を作ったの!」

このまま愚痴を聞かされたら堪ったもんじゃない。私は話をはぐらかす為に机に置かれてるフラスコを取って見せた。

「ん?何だ、それは?」

首を傾げながら問いかけるリシャスちゃんに、私は誇らしげに言った。

「これは私が新しく発明した新薬……その名も、オハナ・シデキール!」
「…………」
「……な、なに?どうしたの?」
「……馬鹿丸出しな名前だな」

グサァッ!!

「うぅ……リシャスちゃん、少しは歯に衣着せたらどうなの?」
「馬鹿言え、そんな馬鹿馬鹿しい名前を聞いたら、誰もが同じ事を言うだろ」
「ちょっとぉ!何回馬鹿って言ったら気が済むのよぉ!」
「たったの4回しか言ってないだろうが……で、それはどんな薬なんだ?」

説明を促され、私はコホンと咳払いをして薬の効果を説明した。

「何事においても相手を説得させるのに必要なもの……それはズバリ、話術!この薬は、脳に栄養を送って活性化させて、相手に何をどう、どんな風に言えば良いのか瞬時に判断させる……」
「要するに話術を向上させる事ができるのか」
「ビンゴ!」

私は得意げに指をパチンと鳴らし
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