「……え、えっと……あの……」
「あ〜、やっぱり怖いか?まぁ気持ちは分かるが、安心しな。魔物は別にアンタを取って食ったりしないからよ」
「そう、大丈夫だ。ここにいる魔物たちはみんな良い人たちばかりだ。無闇に君を襲ったりしないさ」
「は、はい……」
所変わって、此処はカリバルナのダイニング。探索から戻ってきた俺たちを見兼ねて、サフィアやピュラ、オリヴィアを始めとした船員たちが集まってきていた。
ベリアルに乗っ取られたトルマレアを後にした俺たちは、辛くも難を逃れていた八百屋の娘を連れて船に戻ってきたのだった。
そしてこれから詳しい事情を色々と聞かせてもらうつもりだが、娘さんの方は魔物娘の船員たちに囲まれて怯えた様子を見せている。元はと言えばトルマレアが反魔物国家だから仕方ないが。
「はい、お待たせしました。ジパング産の緑茶ですよ」
「え、あ、ど、どうも……」
「あらあら、そんなに固くならなくてもいいのですよ。とりあえず、そのお茶を飲んでリラックスしてくださいね」
「ああ、楓が淹れるお茶は美味い。君も飲んでみるといいよ」
「は、はい」
ただ、自分の国の王女が傍らに居るお陰で安心感は抱いてるようだ。楓から差し出されたお茶も素直に受け取った。これなら色々と話を聞けそうだ。
「……ん?そう言えばヘルムは?さっきから見かけないんだが?」
「さっき国の様子を見て来ると言ってました」
「え?なんでまた急に……」
「分かりませんけど、すぐに戻ってくるとも言ってましたし、大丈夫だと思います」
「……まぁそうだな。こっちはこっちで勝手に始めるとするか」
ふと、この場にヘルムの姿が何処にも見当たらないことに気付いた。楓曰く、単独でトルマレアの様子を見に行ったとのこと。
国の状況ならさっきあいつにも話したはずだが……なんでまた?
とは言ってもヘルムの事だ。何か考えがあっての行動だろう。あいつの帰宅を待っていても時間がもったいないから、先にこっちで話を進めるとしよう。
「そう言えばアンタ、名前は?」
「あ、はい。リリカです」
「そうか……よし、早速聞きたいんだが……」
と言う訳で、まずは今のところ知ってることをおさらいしてみた。
「このトルマレア王国はベリアル率いる海賊団に乗っ取られている訳だが……それにしてもアンタはよく無事でいられたな」
「はい、私はお父さんの機転によって、お店の地下倉庫に隠れていたため難を逃れたのです。それで、外が静かになってきたところで倉庫から出たら、あんな事になってしまったのです。外が急に暗くなって、街の人たちは何故かみんな固まってしまって、私を匿ってくれたお父さんも何処かへ姿を消してしまいまして……」
「成る程な。それで、アンタはその後どうしたんだ?」
「あの時はどうすればいいのか分からず混乱してしまいましたけど……とりあえず、姿を消したお父さんを探しに行きました。その最中に国の兵士さんに遭遇したのですが、トルマレアの兵士は一人残らず敵に洗脳された事を思い出して、咄嗟に逃げてきたのです」
「で、俺たちと出会って、今に至るって事か」
「はい……」
ざっと話を纏めると……このトルマレアはベリアルたちに襲撃されてしまった。
国の兵士たちは敵に洗脳されてベリアル側に寝返り。徐々に兵力を増やしていったベリアルが有利になる。
そして挙句に国ごと乗っ取られてしまい、あの不気味な雰囲気に変貌してしまったと……こういう事になる。
「しかし……まさか国ごと手中に収めるとは。してやられたな。まさかここまで動き出していたとは……」
「おのれベリアル……私はもう怒りを抑えきれない!バルドを洗脳した上に、私の大切な国まで奪うなんて、もう許せない!奴だけは、私が必ずこの手で天誅を下してやる!」
シルクは胸中で煮えたぎる怒りをそのまま顔に表していた。
まぁ、シルクの気持ちは十分分かる。自分の故郷を滅茶苦茶にされたんだ。怒らない訳が無い。
「でも……何故ですかね……?」
ちょうど俺の隣に座っているサフィアがポツリと言った。口を出すつもりは無かったのについ言ってしまったのだろうか。しまった!という風に慌てて口を押さえる仕草を見せた。
「サフィア、何故ってどういうことだ?」
「はい、ふと思ったのですけど……」
俺に話を振られたサフィアは、恐縮気味に口を開いた。
「国を丸ごと乗っ取るなんて随分と大胆な事をすると思いましたけど、よくよく考えたら、大事な事が明確にされてないと思いまして……」
「大事な事?」
「はい。そもそも何故ベリアルたちは、国を乗っ取ったのか……一番の理由が分からないのです。何か大きなメリットでも得られない限り、こんな大掛かりな事をするとは思えないのですが……」
確かにベリアルがトルマレアを乗っ取った理由が分からない。
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