黒ひげと鋼鉄帝王

「おい、老けたってなんだよ老けたって」
「致し方なかろう。最後に会ってから30年は経っておるのだ。人は時の経過と共に老いる。ぬしとて人間であれば、老けなければ不自然であろう」
「そりゃあ白髪は増えただろうが……まぁいい。前、失礼するぜ」


私の目の前にいる海賊総大将ドレークは、黒ひげさんに対して不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄り、その近くにある大きな切り株に腰掛けて黒ひげさんと向かい合った。
それにしても……なんて壮大な光景なんだろう。伝説と呼ばれてる大海賊と、数多くの海賊団を従えている連合軍の総大将が対面するなんて……こんなの滅多に見れないよ。

「……んん?」

と、ドレークは黒ひげさんの背後にいる私の存在に気付いた。目が合ってどうしようかと思ったけど、とりあえず会釈だけしておいた。

「ほう……アンタ、とうとう魔王の娘まで部下に加えたのか。復活して間もないってのに、やっぱり油断できないな」
「いや、こやつは部下ではない。事情があって船に乗せておるだけぞ」

どうやら私が黒ひげさんの部下だと思いかけてたらしい。そりゃあ、事実黒ひげさんより強くないし、そう見られても仕方ないけど……これでも船長目指してるんだけどな。

「なんだ、違うのか。ま、どうでもいいがな」
「……時に貴様、何用で此処に来た?」
「用はあるにはあるが……ただアンタの顔を見に来ただけだ。思い出話も交えたくてな」
「貴様、過去を振り返る性質であったか?」
「たまにはあんだよ、そういうのも。特にアンタとはな……」

気のせいだろうか……黒ひげさんもドレークも、なんだか過去を懐かしむような目付きになっているような気がした。
思い出話って……この二人、もしかして過去に会った事があるの?


「まぁとにかく、俺は戦いに来たんじゃないんだ。戦闘の意思も無い。土産と言っちゃあアレだが酒を持って来たんでな。それでも飲みながらゆっくりと話でもしようじゃねぇか」
「……上等物を持って来たのであろうな?」
「ったく、この世に復活してきても相変わらず現金なジジイだな」
「物品を妥協する海賊がどの世界におる?未だに未熟であった若き頃の貴様にも言ったはずだ」
「ああ、忘れちゃいねぇよ……」


酒を持って来たとドレークは言うけど、見たところ酒と思われる物は見当たらない。
おちょくってる……とは到底思えない。大した根拠は無いけど、やたらと嘘を言う人にも見えないし……それに……なんだろう……。


この人……どこかで会ったような気がする。私の気のせいかな……?


「……あ、あの、ドレークさん……急に割り込んでしまって申し訳ないのですが……」
「ん?」


と、さっきまで黙って黒ひげさんとドレークの会話を聞いてた姫香さんが、恐る恐るといった感じで声を掛けてきた。

「えっと……今日はお一人で来られたのですか?」
「いや、俺の船で部下を引き連れてこの島まで……」
「いえ、そうでなくて、その……私たちの下へ参られたのは、貴方だけなのでしょうか?」

この様子……姫香さんは他に誰か来てるのか気になってるようだ。
確かに、ドレーク一人で此処まで来たのかは私も気になる。木々に紛れて何人かドレークの部下が隠れている可能性もある。だとしたら、一体何を考えて……。

「……あぁ!そういうことか!いや、一人だけ連れてきた奴がいるんだ」

ドレークは姫香さんの言ってる意味を理解したようで、ポンと軽く手を叩く仕草を見せた。
そして……。


「ガロ!酒持って来い!」


ドレークは右手を口元に当てて、誰かを大声で呼び始めた。


「はっ!ここに!」


そして風の如く素早さで、ドレークの傍らに男の人が現れた。どうやらあの人がガロらしい。両手にはお酒が入ってる瓶と二つの杯を持っている。
こげ茶色のローブを身に纏い、赤と黒で彩られている不気味な仮面を被った人だ。身体から顔まで、あらゆる物で隠れているため正体は分からないけど、声色から男の人だって事は分かった。


「あ……!」


ガロの姿を見た途端、姫香さんは鼻から口元を手で覆った。
その仕草は驚いたような……それでいて嬉しそうな感じだった。

……ほうほう……この反応、中々興味深いわね……。

「あいつは……旋風のガロ!」
「え?」

ガロの姿を見たバジルは、少し驚いた表情を浮かべた。

「バジル、あの人のこと知ってるの?」
「ああ、今は旋風の異名を持つ海賊だが、元は闇の組織に所属していたアサシンだ。実力も教団のエリート勇者に匹敵すると言われている」
「へぇ……」

バジル曰く、ガロは元アサシンだったとか。よく分からないけど、教団の勇者と同じくらい強いって事は相当凄い人なんだろうな。

「……!」

ガロは正面を向いた途端、姫香さんの存在に気付いたらし
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